日本で驚異的な盛り上がりを見せるオープンソースの分散型SNS「Mastodon(マストドン)」。
ドイツ在住のEugen Rochko氏によって開発されたサービスで、Twitterに似たUIを採用している。ユーザーは、自分の好みにあったサーバ(インスタンスと呼ばれる)を選択してアカウントを作成・ログインすることで、インスタンス内のほかのユーザーとコミュニケーションできる。インスタンス同士も連携しており、他のインスタンスのユーザーともコミュニケーションが取れるのが特徴だ。
日本では、世界最大のインスタンスでもある「mstdn.jp」と、ピクシブの「pawoo.net」を筆頭に、ドワンゴの「friends.nico」、家入一真氏の「kinugasa.me」、堀江貴文氏の「horiedon.com」など、個人・法人を問わずインスタンスが次々と立ち上がっている。また、ニッポン放送も「tuner.1242.com」を立ち上げたばかりだ。
そのmstdn.jpは、大学院生のnullkal氏が個人で立てた自宅サーバで運用されていたものだが、急激なユーザー数の増加によってトラフィックが逼迫し、ゲヒルン(さくらインターネット子会社)のisidai氏の協力によってさくらインターネットのサーバにインフラを移行している。また、さくらインターネット自体の動きも早く、4月18日には簡単にインスタンスを立ち上げられるよう、専用のスタートアップスクリプトを提供している。
なお、nullkal氏だが、4月21日にドワンゴに入社することを発表した。mstdn.jpは引き続き運用していくとしており、ドワンゴが立ち上げたfriends.nicoとは「いい協力関係を築いてゆけたらなーって思っています」とコメントしている。
さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏は自身のブログで、マストドンについて「インターネットの本質的な価値」を持っているサービスとして紹介している。今回、田中氏にインタビューし、マストドンに関する一連の動きや、サーバビジネスにもたらす影響、今後の展開などについて聞いた。
――日本でマストドンが流行り初めてから2週間近くが経ちますが、ものすごい勢いで日々新しい流れが起きています。
私もこんなに大きな騒ぎになるとは思っておらず、面白いものが出てきたという感じでした。P2Pでいえば、「Winny」「WinMX」に掲示板機能もありましたし、昔からP2P的な動きはありました。マストドンが面白いのは、一カ所に集中するわけでもなく完全に分散するわけでもなく、クラスタが緩やかにつながって、一つの大きなネットワークを作ろうとする取り組みが今時だと感じています。マストドンのソフトはオープンソースですし、プロトコルも公開されています。おのおのがサーバを立てて緩くつながるというのは、これまでのP2Pの流れと異なります。
また、クラウドが一般的になり、個人である程度の大きさのSNSの主、昔でいえば、パソコン通信時代の草の根ネット(草の根BBS)のように、“ホスト局を作ってつながる”ことの現代版だと考えています。クラウドとSNSが普及してきた流れで生まれた、新たなムーブメントという印象を持っています。
草の根ネットの時と比べると、管理者を始めるハードルも劇的に下がっています。ソフトも「GitHub」で公開されていますし、サーバも契約すればすぐに使えるようになります。また、利用者は電話代がかかるわけでもなく、普段のインターネットと同じように使えます。成熟したインターネット社会における“パソコン通信の再来”という牧歌的なイメージを持っています。
――「パソコン通信の再来」という言葉が印象的ですが、こうしたネットワークを使った緩いつながりというのは昔からあった流れなのでしょうか。
1980年代から90年代初頭までは、技術に自信のあるユーザーがホスト局を作っていました。しかし、ホスト局の構築には電話回線を敷く必要がありましたし、高価なホストコンピュータを購入したり、ソフトウェアも自分で書く必要があるなど、さまざまなハードルがありました。インターネットが素晴らしいのは、こうしたコストがゼロになってきたということです。
ホスト局の管理者のモチベーションは、自分の世界を作ることができるところにあります。巨大なSNSですと、運営ポリシーなんかもSNS提供側がコントロールすることになりますが、マストドンの場合は、ドワンゴであればniconicoのIDと連携したり、Pawooであれば二次創作の好きな人が集まったりと、自分の世界をどんどん作っていけることで、ホスト局の管理者のような醍醐味を味わえます。こうしたサーバ管理人側のモチベーションも適度に感じられるのが面白いのかもしれません。
さくらインターネットでも、昔は掲示板のサービスを提供していました。そのなかで、例えば凝ったデザインにすることでユーザーが喜んでくれたり、ポリシーを決めていったりなど、自分自身の世界を作って、その中でユーザーが過ごしてくれることにモチベーションを感じた人も多いと思います。
――それぞれのインスタンスに世界観があり、同じ趣味・嗜好を持つ仲間と交流ができるというのは、全世界に発信する現代のSNSとはまた違いますね。
特定の企業が巨大なSNSを作ると、その中はフラットにつながってしまいます。ユーザーは、居心地の良い壁の位置や大きさを常に模索している状態です。マストドンの場合は、大きなSNSというより小さな世界観ですが、それらもまた緩くつながるという、フラットでありつつ分割されているという新しい概念だと思います。
――ピクシブのPawooでは、投稿されたコンテンツに関して、日本と海外でのスタンスの違いから現在ルール決めしている状態のようです。
日本では児童ポルノではないものでも、海外では児童ポルノと扱われてしまうケースは多くあります。グローバルなSNSなど完全にフラットな世界では、国ごとのレギュレーションの違いが許されなくなってきてしまい、日本では問題ないものでも世界的に見てダメになってしまい、価値観が似通ってくるようになります。もちろん本当の児童ポルノはダメですが、マストドンでは、日本では許されるような二次創作を内輪で公開し、それを認めないインスタンスとはつながらないという、外交関係のような話になってくると思います。
――確かに、その輪の中に入りたい海外のユーザーがいれば、そのインスタンスに登録してコミュニケーションできます。
そうですね。国という概念も関係なくなってくると思います。
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