「われわれは世界一の家庭用ロボットカンパニーを目指す」──そう話したのはiRobotの会長兼CEOを務めるコリン・アングル氏だ。iRobotという社名をもし知らなかったとしても、ロボット掃除機「ルンバ」の名前が聞いたことはあるだろう。
ルンバがこの世に登場したのは2002年のことだが、日本ではとりわけ2012年以降に急成長した。これまでに日本市場で販売されたルンバは200万台に及ぶ。ロボット掃除機として極めて優秀であるという評価は、多くのフォロワーが生まれた現在でも揺るがず、グローバルでのシェアはコンスタントに65%前後、国産メーカーが強い日本でも55%を確保している。
そのiRobotが日本法人を設立した。社長には日本ヒューレット・パッカードでPC、後にプリンタを中心としたイメージング事業を担当し、直近では音響メーカーBOSEの社長を務めていた挽野元氏が就任した。
ルンバの認知度は日本でも極めて高く、「ロボット掃除機の」と気付く人は多い。世帯普及率に関しては、実は4%とまだ決して高いとは言えないものの”ロボット掃除機と言えばルンバ”と言えるほどに定着した存在ではある。
しかし同時にiRobotという企業を”掃除機を作っている会社”と理解している人も多い。しかし、iRobotは掃除機メーカーではなくロボットの会社だ。自律型、リモートコントロール型など制御による違いはあるにせよ、ロボット技術で何かを解決する製品を提供してきた。我が国においては福島第一原子力発電所の事故現場を調査するロボットに、同社の技術が用いられていたことをご存じの方もいるだろう。
ロボット技術で問題解決をする会社──と考えれば、彼らの将来のビジョンが少し想像できるようになるかもしれない。ロボットは人間が入りにくい、あるいは危険が伴う場所など、シビアな現場で使われてきた。そうした場で鍛えられた技術を応用し、人々の普段の暮らしを改善する。そのもっとも端的な用途が”掃除”だったに過ぎない。
そしてコンシューマ向けロボット製品の発展性に確信を持ったiRobotは、産業用や事故処理向けの事業をすべて売却し、家庭向け製品だけに特化した、いわばB2Cカンパニーとして再出発している。
新法人発表を機に来日したアングル氏、日本法人社長となった挽野氏にiRobotの日本での展開について話を聞いた。
――2016年、iRobotはコンシューマ向け市場に集中する決断をしました。なぜB2Cカンパニーとなることを選んだのでしょうか。
アングル氏:われわれは長く製品開発を行ってきたことで、産業や事故処理などの用途で確固たる地位を確保しましたが、ルンバの成長などからB2Bに比べてB2Cの市場はとてつもなく大きいと感じました。われわれは決して大きな企業ではありませんから、両方の市場を追いかけていたのでは十分な投資を行えないことが明白でした。B2Cを選択したのは、そこに大きな可能性を感じたからです。
――実際にコンシューマ向け製品事業のみにフォーカスしたことで、収益は落ちなかったのでしょうか?
アングル氏:総売上は、2015年より2016年の方が多いのです。おっしゃるように、われわれは2016年、B2C以外の事業をすべて売却しました。しかしB2B事業の大部分を売却したにもかかわらず、総売上、収益ともに伸びたのです。それだけコンシューマ市場に可能性があるということでしょう。2017年もさらに伸ばしていけると確信しています。
――なぜ日本市場に注目したのでしょう。日本市場、日本法人期待することは?
アングル氏:ロボット産業はまだまだ若い業界です。たとえばロボット掃除機の場合、日本での世帯普及率はまだ3~4%しかありません。(日本ぼど購買力のある市場でもまだ普及率が低いのだから)まだ伸びていく”伸びしろ”があります。10%、20%と拡げていく中で、私たちにも大きな可能性があると考えています。
日本はそもそもロボットに対して友好的な印象を持っている人が多い。自分たちの生活を助けてくれる仲間といった、イメージです。ところが、これが他国に目を向けると、ロボットは自分たちの仕事を奪う、忌むべき存在いう意見が主流という国、地域もあります。いやいや、生活の品質を向上させてくれる、手伝ってくれるのがロボットなのだというのが、私たちのスタンスです。ロボットに対してフレンドリーな日本では、生活の質を向上させるためのロボット技術応用という部分で大きな成功事例をここで作れると確信しています。
――iRobotは掃除機メーカーではないとはいえ、現時点では掃除をキーワードにした2つの製品が主力です。一方、近年はロボット掃除機も商品ジャンルとして確立して参入メーカーも相次いでいます。そうした中でirobotの優位性、本質的な価値はどこにあるのでしょうか。
アングル氏:ロボットは複合的な技術要素を持つジャンルです。メカニズム、エレクトロニクス、ソフトウェア、クラウドサービス、AIなどそれぞれに重要なノウハウがあります。各領域において経験があるだけでなく、実際に多数のロボットを現場で動かしてきたことで、制御やAIの部分で他社との違いを見つけられるはずです。
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