アイロボットの新たな決断--B2BからB2Cカンパニーへとシフトした理由 - (page 2)

――確かにiRobotのロボット掃除機は”違う”という意見が多いですね。しかし何が違うのでしょう。過去の歴史を振り返ると、クラウドやソフトウェアで実現できる機能の多くは、フォロワーがキャッチアップする期間が短かった。この先、iRobotは優位性を保てるのでしょうか。

アングル氏:iRobotが開発する掃除ロボットと競合の違いは、使う人の視点で掃除機を考えているかどうかです。人が掃除機のハンドルを操作するとき、自分の頭で考えて掃除機を動かします。床はどのぐらい汚れているのか?一度で汚れは取れたか。もう一度、ハンドルを往復させた方がいいのではないか。そうしたことを判断しながら、適切な掃除を行います。単にまんべんなく床を掃除するだけでなく、そうしたインテリジェンスがロボット掃除機には必要です。いくつか例を挙げましょう。

 たとえばルンバは床の上にある細かな土や埃を探知できる唯一の掃除機です。他のロボット掃除機は汚れを探知していないため、一度通れば掃除が終了したと思い込んでいます。しかし、実際には一度では不十分なことはよくありますよね。

 カーペットの端面や角がめくれて、ブラシに絡まることはありますが、ルンバはそれを検知してブラシを逆回転、自動的にはずす機能を持っていますが、他にはこうした動きができる掃除機はありません。今、掃除をしている床がどのような種類(絨毯なのか床なのかなど)を認識し、パワーを調整しているのもルンバだけです。

 さらにはカメラで部屋の構造を認識し、細かく自分の位置を把握しながら動作しつつ、将来的にはこうした情報を元に構築する部屋のマップをもっと拡充させることで、より優れた”振る舞い”をさせることができるでしょう。ロボット掃除機に求められるのは、ベストな掃除機であるとともに、ベストなロボットとしての動作にコミットすることです。

 こうした研究開発を続けたことで、われわれはルンバを発売してからの15年間に9世代ものシステムを開発し、グローバル特許を1000件も保有しています。

――確かにルンバの動きは特徴的で、機械的な動作よりも状況に応じて、まるで考えているかのような動きを見せる場合があります。ただ、それらは物事を解決するための”アイデア”ですよね。現時点でアイデアを製品に実装しているのはiRobotだけかもしれませんが、アイデアの実現方法はひとつではありません。ソフトウェアやクラウドを用いた商品の場合、優れたアイデアを持っていても短期間でまねされるケースが極めて多いと思うのですが。

アングル氏:確かにアイデアはまねされる可能性があります。しかし、われわれの実装は15年間、9世代にわたる試行錯誤の結果作られたもので、その結果得られたベストプラクティスに対して知財ポートフォリオ(商品アイデアや機能などを守るためにまとめた複数の特許)を構成しています。

 われわれの知財ポートフォリオの強さを示す数字もあります。IEEEが毎年発表している保有特許の価値評価(Pipeline Power)で、全エレクトロニクス企業の中で5位にランキングされました。これは特許数ではなく、特許の強さを示す評価値です。

――米国ではAmazonとの提携についても報道されています。具体的にどのような分野でAmazonと協業するのでしょう?

アングル氏:Amazonとの協業は大きく分けて2つあります。一つはルンバの”頭脳”となる部分をクラウド側にも拡げ、ルンバ内蔵のプロセッサだけでなくAWS(Amazon Web Services)にも分散、拡張させたシステムの研究開発をAmazonと共同で行っています。クラウドのパワーを活用することで、よりルンバを賢くさせることができます。

 もう一つはAlexaとの連携です。Alexaを用いれば自然言語をしゃべるだけで、ルンバとのインタラクションが可能になります。米国ではすでに使えるようになっており、この後、英国とドイツに拡げていく予定です。

――AmazonもiRobotもAIが事業の大きな切り口になっています。このジャンルで2社が協力する可能性はありますか?

アングル氏:現時点では、AmazonとAIに関して共同で事業や開発を行うという発表はしていません。私たちはGoogleとも音声インターフェースやスマートホームで協業を勧めていますから、それをAI分野に拡大する可能性は、AmazonだけでなくGoogleともあります。ただ、ロボット掃除機は部屋の状況を詳細に知ることができます。多様なセンサを通じてロボット掃除機が収拾する情報を活用するチャンスがあることは重要ですね。

――具体的にどのような実装が考えられますか?

アングル氏:“住宅”をよりスマートな環境にする上では、よりすぐれたAIの開発以前に、部屋の物理的情報を正確に理解する方が重要です。現在のAIサービスは、長年の研究開発で人が話す自然な言葉を理解できるようになったかもしれませんが、しかし、的確に指示を捉えたところで、実行するには空間を把握する必要があるからです。たとえば”キッチンに行ってドリンクを取ってきて”と言ってAIが理解したとしても、キッチンがどこにあるのか、どのような経路で行くべきか、元に戻って来られるのか。キッチンの場所、自分がいる場所がわからなければ意味がありません。ルンバには将来、そうしたタスクもこなせる可能性があります。

――住空間の把握は、今後のセンサ性能向上やセンサ種類の増加などでさらに向上するでしょう。しかし、住空間の把握がさらに詳細なものとなれば、その分、プライバシーとの関係性もクローズアップされることになりますね。

アングル氏:もちろん、その点は大変に重要です。ですから、いかなる情報も異なる種類の情報に関しては、一つずつユーザーが”イエス”と応じない限りインターネットにはアップロードしません。許可を確実に得るには、なぜ必要な情報なのか、その情報によって何が可能になるのか、用途以外では用いられないといったことを理解してもらえるよう説明し、安心してもらいます。最近、システムのアップデートで、スマートフォンを通じてルンバが部屋の中をどのように掃除したかマップで見られるようになったのですが、こうした機能もユーザーがOKを出さなければ使うことはできません。

――今後の日本でのiRobotの動きですが、たとえばAlexaは日本でのサービスインが見通せていません。一方で楽天やLINEなど、日本ローカルの事業者が類似するサービスを準備しています。日本でのパートナー選定は今後、グローバルとは異なる形で進めるのでしょうか?

アングル氏:より多くのパートナーとオープンに関係を深めていきたいと考えています。米国でAmazonだけでなくグーグルと協業しているように、日本で別のパートナー候補があるのであれば、彼らと話を進めたいですね。

――最後に、挽野さんが日本法人を率いるにあたり、事業ビジョンについてお話しいただけますか。

挽野氏:顧客がより多くの自由な時間を得られるようロボティクス技術で貢献することです。国や地域で生活のスタイルや住環境は異なります。日本の顧客がロボットを通じ、より効率の良い時間の過ごし方ができるようになれば、きっと生活はより豊かなものになるでしょう。iRobotには25年のロボット開発の歴史があり、15年のロボット掃除機開発の歴史がある。そうした積み重ねの中で、さらに生活の品質を高めるためにロボティクスがどのように使えるのか。そこに日本法人として取り組んでいきたいと思います。

「顧客がより多くの自由な時間を得られるようロボティクス技術で貢献したい」と挽野氏
「顧客がより多くの自由な時間を得られるようロボティクス技術で貢献したい」と挽野氏

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