西塚氏は、源ノ明朝のデザインについて「デジタルデバイスでよく見えるようにチューニングされており、中国の人、日本の人、韓国の人が快適に見えるように配慮した」としたほか、「スマートフォンの縦書き小説や長文でも使えるように、サイズは小塚明朝と比べて98%と若干小ぶりになっている」とのことで、デジタルデバイス上で長文を読む機会が今後より増えることを意識し、字間に空間が生まれるように調整されている。
フォントの骨格は、デジタルデバイス向けではあるものの、手書きの軌跡から生まれる骨格を追求したという。ディスプレイのバックライトで線が消えないよう、文字の先端や横線が小塚明朝と比べると太くなっており、画面の小さなスマートフォンでも読みやすくなるよう配慮されている。また、縦書きでも違和感が出ないよう、縦書き専用のグリフを制作している。縦書きで表示する際は自動で切り替わる。
源ノ明朝の漢字は、“はね”や“とめ”など187のエレメントを用いて制作している。このエレメントは、中国や韓国のフォント制作パートナーと共有することで、漢字のデザインに統一性を持たせられるほか、データ量の削減にも貢献している。また、中国と日本でほぼ同じ骨格を持つグリフが上がってきた場合、データ容量を削減するためにどちらかのグリフを採用する必要があったようだ。
「中国側との調整はとても大変だった。どちらかが気持ち悪くてもダメで、データを削減しつつお互いに気持ち悪くならないようなフォントに仕上げる必要があった」と西塚氏。グリフのアップデートのたびにチェックをやり直したほか、共通化が難しい場合はそれぞれのグリフを制作したという。
源ノ明朝をどのような用途で使って欲しいのかという質問に対しては、「アジア向けに発信したいサイトやゲームなど、フォントの制約で開発が遅れてしまわないよう、さまざまな開発にチャレンジしてほしい」と語る。また、「印刷でも使ってもらえるように配慮している。大きめの仮名を使って児童文学や高齢者向けなど、大きく見やすい文章にも適しているのではないか」としている。
これから訪れるであろうAR/VR時代のフォントについて尋ねたところ、「未来のことなので何も決まっていない」としつつ、西塚氏は、小塚明朝をデザインした小塚昌彦氏の言葉を引用し「ペースは速くないが、フォントは20年を周期に新しいテクノロジにごろっと置き換わる。これまで活字から写植、デジタルに移ってきた」とした上で、「デジタル時代はテクノロジが進化するペースも早い。フォントは媒体と一緒に発展するものだと思っており、VRや3D空間ではどのようなデザインが見やすくなるのか、解決に時間はかかるものの、そこで現れた問題を瞬時にキャッチして模索するようにしている。まさにVRで何かできないかと少し考えている」と語った。
また、同社デジタルメディアタイプデベロップメントフォントデベロッパーのフランク・グリスハマー氏は、「源ノ明朝自体もオープンソースフォントなので、将来と言わずにVRでもどんどん使ってほしい。新しいオープン領域を開拓するためにも、既存のものをたくさん使ってもらうことで、新しいビジネスの発展が進むのではないか」とした。
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