未来へのヒントがみつかる次世代デジタル戦略

“気持ち悪い=クール”を体験できる参加型MV「Deja vu」--誕生秘話を聞く - (page 2)

エピソードとして音にのせる、クライアントが伝えたい要素

——バズる動画の法則とも言える“逆輸入”的な現象が、図らずも起こっていたんですね。このように動画をバズらせる、多くの人を惹きつけるという点において、サウンドデザインに欠かせない要素とは、何だと考えますか。

清川氏:サウンドの1つ1つに、エピソードをにじませることでしょうか。これに気づいたのが、大分の温泉をPRする「シンフロ」という動画です。大分の温泉でシンクロナイズドスイミングのスイマーたちが踊っている、という映像なのですが、大分には温泉以外にもカレイだとか鶏天だとか、石仏だとか、人を惹きつける魅力がいっぱいあります。けれど、美しく完成されたシンクロの世界観に他の要素を入れようとすると、映像としてのクオリティがどんどん下がってしまう。そこで4カ月かけて大分中の土地土地の音を録音して、その環境音を組み合わせることから、1つの音楽をつくりました。

動画:【おんせん県】「シンフロ」編 フルバージョン

 これはカットアップといって、かなり前から取り入れている手法です。だけど僕自身、「どうして、この手法に魅力を感じるんだろう?」と、ずっと疑問でした。その答えが「エピソードをにじませる」ということだったんですね。映像として取り入れてしまっては全体のクオリティが下がる中、環境音として大分県がPRすべく要素を取り入れるという。

——なるほど。クライアントがPRしたい要素を文字通り、“サウンドにのせてしまう”ということですね。環境音を得意とする清川さんならではの手法ですが、デジタルによるサウンドデザインを得意とする中村さんは、いかがでしょう。

中村氏:単純に得意なことと言えば、絵合わせですね。日産キャラバンのプロモーションムービーとして清川と一緒につくった、「THE PROFESSIONAL OF JAPAN」のサウンドも、その1つです。日本の職人たちの技、それも単なる技ではなく、スゴ技を伝える映像なのですが、絵と音楽をピタッと合わせる手法を用いたことで、技が決まるときの心地よさが、グッと上がったというか。

動画「THE PROFESSIONAL OF JAPAN|NISSAN CARAVAN」

——すごく勝手なこじつけですが、職人たちのスゴ技に対し、まるで職人芸のように映像と音楽を合わせていくという点で、清川さんのおっしゃる「サウンドにエピソードをにじませる」というお話と重なった気がします。

中村氏:そう言われると、ちょっと重なるかもしれませんね(笑)。いずれにせよ、絵合わせの作業って、個人的にもすごく楽しいんです。ドッドッドッ、という感じで拍を打っていくのがオーソドックスな音づくりですが、絵に合わせるためにリズムをねじ曲げたりして。すると不思議な変化が生まれ、聞き手からしても面白いサウンドになるんですよね。

360度が撮れるVRカメラに気づかされたアナログの本質

——最近では、最新のテクノロジを用いるからこそ撮れる映像で惹きつけるような映像が少なくありません。サウンドデザインにおけるテクノロジの活用という点では、いかがでしょう。

清川氏:360度の映像も、テクノロジが可能とした映像の1つですよね。その映像に合わせ、音も360度で表現するためにスペーシャルオーディオという技術を使うわけですが、たとえばVRって、すぐ近くで鳴っている音まで一緒にくっついてくるから、音による360度の表現って、意外とまだまだ少ないんです。それを思うと最新のテクノロジを使えば使うほど、アナログの本質が見えてくる気がしますね。

——最新のテクノロジだからこそ実現できる技法ゆえに、アナログだからこそ可能な技法が見えてくるということですね。

清川氏:そういう感覚って、アナログも知っていて、デジタルも受け入れている僕らの世代だからこそだと思うんです。技法だけじゃなく、もっと単純にサウンドそのものにしても、最近って、雰囲気そのものをつくり出すような音楽がクールという風潮がありますよね。映画音楽にしてもそうで、つかみ所がないけれど、なんだかかっこいい。その一方で、僕らみたいに40代前後の世代では「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のテーマ曲のように、メロディを聴くだけでシーンがよみがえるような曲が評価されていた。

 あらためて振り返ってみると、音楽の根本的な機能って、シーンをよみがえらせることにあるような気がします。その根本的な機能というか、役目を忘れずにデジタルを取り入れていきたいとは思いますね。

インビジブル・デザインズ・ラボ
(左)インビジブル・デザインズ・ラボ 清川進也氏(Skype通話にてご参加)、(右)インビジブル・デザインズ・ラボ 中村優一氏

デジアナ世代だからこそ半分はみ出る“センターマン”的発想

——中村さんはいかがですか。デジタルサウンドを得意とされていると、テクノロジとは切っては切れない部分も多いかと思います。

中村氏:私もそこにはあまり引っぱられず、音楽をつくるという、根本に重きを置いていたいと思いますね。ただし表現方法として、新しいテクノロジは常に意識しています。メディアが多様化した今では、映像だけでなくサウンドデザインにも、拡散するためのアイデアが求められます。その点でも、技術の模索が欠かせません。

——ありがとうございます。40代前後というデジタルもアナログも知る、いわば「デジアナ世代」というフレーズが、新しいサウンドや映像を生み出す大きなヒントになりそうですね。

清川氏:どちらも知っているし、僕らの世代って十数年、もはや数十年と音楽をつくってきて、空手でいうところの“形(かた)”を知っていますよね。だからこそ、知識と経験を基盤に、半分、はみ出てみる。これも僕らの世代じゃないと知らないと思うけど、センターマンの気分ですよ(笑)。“形”を知っているから、半分のはみ出しが可能なんです。

 僕が得意とする環境音楽をベースとした「シンフロ」では、物理的にスタジオからはみ出して、あらゆる場所から音を収集し、1つの音楽をつくりました。そんな風に“形”からはみ出てみると、はみ出た行為そのものが新しいチャレンジとして映るし、チャレンジしているプロセスが音にもにじみ始めます。結果、エピソードがにじんだサウンドがつくれるのではないでしょうか。

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