清川氏:サウンドの1つ1つに、エピソードをにじませることでしょうか。これに気づいたのが、大分の温泉をPRする「シンフロ」という動画です。大分の温泉でシンクロナイズドスイミングのスイマーたちが踊っている、という映像なのですが、大分には温泉以外にもカレイだとか鶏天だとか、石仏だとか、人を惹きつける魅力がいっぱいあります。けれど、美しく完成されたシンクロの世界観に他の要素を入れようとすると、映像としてのクオリティがどんどん下がってしまう。そこで4カ月かけて大分中の土地土地の音を録音して、その環境音を組み合わせることから、1つの音楽をつくりました。
これはカットアップといって、かなり前から取り入れている手法です。だけど僕自身、「どうして、この手法に魅力を感じるんだろう?」と、ずっと疑問でした。その答えが「エピソードをにじませる」ということだったんですね。映像として取り入れてしまっては全体のクオリティが下がる中、環境音として大分県がPRすべく要素を取り入れるという。
中村氏:単純に得意なことと言えば、絵合わせですね。日産キャラバンのプロモーションムービーとして清川と一緒につくった、「THE PROFESSIONAL OF JAPAN」のサウンドも、その1つです。日本の職人たちの技、それも単なる技ではなく、スゴ技を伝える映像なのですが、絵と音楽をピタッと合わせる手法を用いたことで、技が決まるときの心地よさが、グッと上がったというか。
中村氏:そう言われると、ちょっと重なるかもしれませんね(笑)。いずれにせよ、絵合わせの作業って、個人的にもすごく楽しいんです。ドッドッドッ、という感じで拍を打っていくのがオーソドックスな音づくりですが、絵に合わせるためにリズムをねじ曲げたりして。すると不思議な変化が生まれ、聞き手からしても面白いサウンドになるんですよね。
清川氏:360度の映像も、テクノロジが可能とした映像の1つですよね。その映像に合わせ、音も360度で表現するためにスペーシャルオーディオという技術を使うわけですが、たとえばVRって、すぐ近くで鳴っている音まで一緒にくっついてくるから、音による360度の表現って、意外とまだまだ少ないんです。それを思うと最新のテクノロジを使えば使うほど、アナログの本質が見えてくる気がしますね。
清川氏:そういう感覚って、アナログも知っていて、デジタルも受け入れている僕らの世代だからこそだと思うんです。技法だけじゃなく、もっと単純にサウンドそのものにしても、最近って、雰囲気そのものをつくり出すような音楽がクールという風潮がありますよね。映画音楽にしてもそうで、つかみ所がないけれど、なんだかかっこいい。その一方で、僕らみたいに40代前後の世代では「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のテーマ曲のように、メロディを聴くだけでシーンがよみがえるような曲が評価されていた。
あらためて振り返ってみると、音楽の根本的な機能って、シーンをよみがえらせることにあるような気がします。その根本的な機能というか、役目を忘れずにデジタルを取り入れていきたいとは思いますね。
中村氏:私もそこにはあまり引っぱられず、音楽をつくるという、根本に重きを置いていたいと思いますね。ただし表現方法として、新しいテクノロジは常に意識しています。メディアが多様化した今では、映像だけでなくサウンドデザインにも、拡散するためのアイデアが求められます。その点でも、技術の模索が欠かせません。
清川氏:どちらも知っているし、僕らの世代って十数年、もはや数十年と音楽をつくってきて、空手でいうところの“形(かた)”を知っていますよね。だからこそ、知識と経験を基盤に、半分、はみ出てみる。これも僕らの世代じゃないと知らないと思うけど、センターマンの気分ですよ(笑)。“形”を知っているから、半分のはみ出しが可能なんです。
僕が得意とする環境音楽をベースとした「シンフロ」では、物理的にスタジオからはみ出して、あらゆる場所から音を収集し、1つの音楽をつくりました。そんな風に“形”からはみ出てみると、はみ出た行為そのものが新しいチャレンジとして映るし、チャレンジしているプロセスが音にもにじみ始めます。結果、エピソードがにじんだサウンドがつくれるのではないでしょうか。
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