スマートフォンを中心に、オムニチャネルやIoTなどの次世代テクノロジを通じて生み出されるデジタルマーケティング戦略。そこにはアイデアやクリエイティビティが不可欠だが、それだけでは「これまでになかった体験」を提供することはできない。ユーザーに新たなエクスペリエンスを届けるために、欠かせない普遍性や本質とは何か。
この連載では、デジタルを活用したコミュニケーション施策を発信する「コードアワード」に寄せられた作品から、デジタルマーケティングの「未来」を拓く“ヒント”をお届けする。
今回、取り上げるのは「コードアワード2016」において「グッド・クラフト」を受賞した、インビジブル・デザインズ・ラボによる「Deja vu|KAMRA」。インディーズアーティスト・KAMRAのコアファン獲得を目指し、音楽やアート、テクノロジに関心の高い世界の人々にアプローチするミュージックビデオを制作。視聴者がウェブカメラで撮影した顔が映像に取り込まれ、音楽に合わせて強制的に変容させられていくさまが、インタラクティブな体験を提供した。
この映像の制作秘話に迫りながら、KAMRAの母体であり、広告映像における数々の音楽を手がけてきたインビジブル・デザインズ・ラボだからこそ語れる、人々を惹きつけるサウンドデザインについて、コンポーザーの中村優一氏、さらにSkypeによるコネクトで、作曲家の清川進也氏に話を聞いた。(聞き手はD2C dotプランナー菅原太郎氏)
中村氏:Deja vuという楽曲は、「Artificial Emotions」というアルバムの一曲です。アルバム全体のストーリーであるテーマが、「人工物に感情を塗りつけていくと、どうなるのか?」。アルバムからピックアップするDeja vuのビデオに関しても、「人工物に感情を塗りつける」ことをキーワードに制作した結果、あのような映像になりました。
「つくるからには、何か面白いことがしたいよね」という話は、企画が持ち上がった段階から自然と出ていたと思います。そこから単に見るだけではない、見る人の顔をウェブカメラで撮影し、映像に取り込んでしまうという、今回のアイデアにつながりましたね。
中村氏:何度もお仕事をご一緒させていただいて、アイデアを形にしてくれる素晴らしい会社であることは明白でした。「ぜひ!」とお願いし、ブレストの段階から、ドット(dot by dot inc.)の皆さんと意見を出し合っています。その中でモノが増殖するだとか、壊れていくだとか、いろいろな案が出ましたが、アルバムのテーマにある「感情」という点で、「やはり感情がいちばん大きく表れるのは顔だろう」と。私たちから依頼している以上、我々がクライアントという立場ではあるのですが、クリエイトする者同士、今回のドットさんとの仕事は、なんだか不思議な感覚でしたね。
中村氏:そうですね。最初はカクカクの状態からつくり始め、どんどんなめらかになっていきました。とにかく映像制作に時間を割いてもらおうと、ブレストに関しては本当に1、2回くらい。あとは制作に当てていただき、全体を通しても1~2カ月で一気にガッとつくり上げた感じです。
清川氏:反響として聞こえてくる声のほとんどが、「気持ち悪い」でしたね(笑)。僕らからしたら「気持ち悪い」という感想は誉め言葉でしたし、狙い通り。もっと言えば、このビデオが公開されて以降、たとえば顔にいくつもの目玉がくっついていたり、ちょっと気持ち悪い感じのミュージックビデオが、ポツポツと出てきた気がします。Deja vuの映像から、「気持ち悪い=クール」を初体験してもらえたんじゃないでしょうか。そこから、ちょっと気持ち悪い感じがかっこいい、“プチキモ”ブームが起こったような印象ですね。
中村氏:だから「美しい映像ですね」なんて感想をいただくと、逆に「そんな視点もあるのか!」と思ってしまったほどです。そのくらい「気持ち悪い」「なんだか怖い」という感想は狙い通りでしたが、あまりにも反響が大きかったので、公開当初はどんな風に広報の対応をすべきか、てんやわんやでしたね(笑)。約150カ国からの視聴がありましたが、日本に比べてアートとか、抽象的な雰囲気に対する感覚が鋭いのでしょうか。とくにヨーロッパからの評価が高く、日本における広がりも欧州からのバズが引っぱってくれた感じがします。
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