2月21日と22日に開催した弊誌主催のイベント「CNET Japan Live 2017 ビジネスに必須となるA.Iの可能性」の2日目において、NTTドコモのチャットボット作成ツール「Repl-AI」の開発リーダーを務める同社R&Dイノベーション本部イノベーション統括部の小林拓也氏が、「人工無脳」をビジネス現場で活用する狙いを語った。
人工無脳とは、人工知能から派生した概念で、あらかじめ対話の内容をインプットさせておき、ユーザーからの質問に対して適切な返答をマッチングすることで、対話を発生させる。
NTTドコモでは現在、本業の通信サービスに加え、「dTV」「dマガジン」などに代表される周辺ビジネス展開を本格化させている。NTTドコモとパートナー企業とが互いに得意分野を持ち寄り、高速PDCAによりビジネスを育むプログラム「39works」はその一例で、Repl-AIも同プログラムで開発されたものだ。
小林氏によると、NTTドコモが「docomo Developer support」で広く開発者向けに公開している無償APIサービスの中でも、特に雑談対話APIの人気が高いという。「メッセージによるコミュニケーションへのニーズが高いのではないか」と、同氏は仮説を立てる。
他方、スマートフォン向けアプリストアに目を向けてみると、ストアへの登録アプリ数の急増で新規アプリの注目度が低下。開発者が新たにアプリをリリースしても、広告コストなどをかけなければそもそも認知が進まない現状があるという。一方で、LINE、Twitter、Facebookに代表されるコミュニケーション・SNS系アプリは、ユーザーの利用頻度が高い傾向が続いている。
こうした背景から、「ストアへのアプリの新規公開」の意義が減る一方で、「すでに普及したメッセンジャーアプリ上でのサービス提供」に注目が集まるのは、ある意味必然だと小林氏は指摘する。
コミュニケーション関連の機能・サービスをビジネスに導入する場合、親和性の高さが期待されるのは接客・カスターマーサポートの現場だ。近年は電話・メールに加え、ウェブサイト上でのチャットが普及しつつある。本来有人で対応していたチャットを、機械によって自動化するのが「チャットボット」だ。人件費の抑制はもちろんのこと、定型的な質問への返答、問い合わせをしてきたユーザー自身が問題を特定できていない場合の切り分けなど、さまざまな効果が期待される。
チャットボットに関しては、ハードウェア性能の劇的な向上を背景に、超高度な「機械学習型」AIによる自動対応に期待が集まっている。しかし、2017年現在のビジネスシーンにおいては、機械自身が“自動で学習を進める”という構造上「顧客に対して予期せぬ返答をしてしまう(=あやまった情報を伝えてしまう)」可能性がゼロとは言えない。
間違いが許されない実務の場においては深刻な問題で、小林氏によると「(AI側で)分からない時、(あやふやな情報を伝えるより)何も返答しないほうがよっぽどいい」という声は多いという。
これに対し、Repl-AIはいわゆる人工“無”脳、つまりルール型と呼ばれる方式を採用したチャットボットである。あらかじめ指定したルールにそって返答をするため、運用者の意図を越えた顧客対応をする可能性はゼロに近い。また、エンジニア以外でもルール作成しやすいよう、GUIを導入するなどの工夫も実施している。
小林氏は今後の開発の方向性として、「エスカレーション機能」を挙げた。ルールをあらかじめ作成しきれないという懸念に対し、もし自動回答できなかった場合にオペレーターへ対応を引き継ぐというもの。この機能は、今のところ検討段階であり、ユーザーからも意見を募りたいという。
では、機械学習型のチャットボットを実務で利用するのは現状で難しいのだろうか。実際にRepl-AIをウェブサイトに実装して運用した際に、「Repl-AIの公式サイトでチャットボットを運用していたところ、(チャット相手をイメージさせる)女性キャラクターを置いた途端、『かわいいね』『どこに住んでるの?』という、まったくサイトと関係ないチャットが届くようになった」と語る。ログを見ると全体の半分までに達するという。
しかしルール型のRepl-AIでは、こういった情緒的なチャットに対応できない。よって、あらゆる質問に対してまず機械学習型チャットボットが対応し、その内容に応じて振り分けをする。そして、より専門的な人工無脳がルールベースで返答するのが1つの理想だとしている。
また、人工無脳は将来の機械学習チャットボットへの移行にも有効という。「AIによる応答の精度は今度も上がっていくと思う。しかし、その学習に必要となるビッグデータ(会話ログ)をまだ持っていない企業も多いはず」とし、「まず人工無脳によってデータを集めておき、将来的に機械学習AIへ反映させる方法もあるのではないか」と語った。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」