2月21、22日に開催されたイベント「CNET Japan Live 2017 ビジネスに必須となるA.Iの可能性」では、企業における先進的な人工知能(AI)の活用事例を紹介したり、今後のビジネスでAIが必要不可欠になるかを解説したりする多彩な講演が催された。
今回は、ハウスコム 代表取締役社長の田村穂氏による講演「リアル店舗とAIの“結合”で実現する『地域の価値ある情報』」の概要をレポートする。同氏は、賃貸仲介業を手がけるハウスコムの具体的なAI導入事例を紹介し、社会と地域に貢献できる不動産テック企業を目指す同社の今後の展開などを語った。
田村氏によると、賃貸物件の仲介をするこれまでの賃貸不動産業は、顧客の持つ情報と業者の持つ情報との差が事業を成り立たせていたという。これに対し、今は多くの賃貸情報ポータルや口コミサイトが存在することで、顧客も容易に膨大な情報を入手できる環境に変わった。
情報が増えると選択しやすくなると考えるが、実際は違う。顧客は多すぎる情報に溺れてしまい、かえって自分の探したいもの、必要なものが分からなくなる。そして、Michael Endeの小説『自由の牢獄』を例に使い、選択肢が多すぎて扉を開けられない小説内のジレンマと、現在の賃貸不動産サービスが似ていると話した。
田村氏は、このような部屋探しの状況を打開し、これまでと違うアプローチ方法を提案できないだろうかと考え、AI活用に取り組んできた。
賃貸不動産サービス業は、取り扱う情報がとても多い。ハウスコムの場合、毎年7万件強のペースで賃貸仲介契約データが蓄積されていくという。これだけ大量のビッグデータ規模となると、人力で解析して有効活用するなど不可能だ。貴重なデータが宝の持ち腐れになってしまう。
そこでハウスコムは、AI導入を決断した。情報を活用できるようになれば、新たな世界観が生まれるのではなか、と考えたわけだ。
まず実現させたのは、ウェブサイトで賃貸物件を探せるサービス「AI物件検索」。これは、場所や家賃、広さという基本条件からスタートし、「少し離れれば」「少し狭くすれば」などと調整しながら顧客の本当に求めているものを探っていく、実店舗の営業スタッフと顧客のあいだで交わされるやり取りの流れを、AIを使って実装したものだ。具体的には、顧客が各種条件を入力すると希望に合っていそうな物件が提示され、その結果を見ながら検索し直して絞り込んでいくのだが、これが店頭での接客に似ている。
2016年2月中旬に導入したところ、4カ月ほどしてから効果が現れ、自社ホームページからの反響件数(問い合わせ件数)が対前年比で大きく伸び始めた。伸び率は不動産情報の3大ポータルサイトより高く、ポータルサイトへの情報提供コストを節約できる可能性があるとみている。
また、接客業務の一部をAIが担うことで、営業スタッフはより高度で複雑な顧客対応に集中でき、人的コストの効率化も期待できる。
続いて開発したサービスは、顧客用ページ「マイボックス」内で機能するチャットボットの「AIチャット」。マイボックスを使うと、担当者がオンラインで顧客から契約書や住民票、印鑑証明を受け取ったり、顧客の問い合わせにチャットで答えたりできる。このチャットのうち、物件に関する簡単な質問への対応をAIボットに任せたわけだ。
答えられる質問は「ガスは都市ガス? プロパンガス?」といったごく単純なものだが、勤務時間が限られる営業担当者と異なり、24時間いつでも対応可能。顧客の知りたいと思った疑問をその場で解決できる、というメリットは大きい。複雑な質問には営業スタッフが答えればよく、顧客のストレス軽減と担当者のコスト削減が両立できた。
なお、興味深いことにメール反響からの顧客来店率も「飛躍的に」(田村氏)上がったそうだ。迅速なオンライン顧客対応に、顧客の行動を積極化する効果があるのだろうか。
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