KDDIは3月8日、不動産事業に参入することを発表した。不動産アセットマネジメントなどを手がけるいちごと、ITを活用した不動産サービスを展開するイタンジの3社で、AIを活用した物件提案の開発や、ソリューション販売を進める。これにあわせて、KDDIといちごは、それぞれイタンジと資本・業務提携した。ただし、イタンジへの出資額は非公開。
KDDIは初めて不動産事業に参入する。その狙いについて、KDDIバリュー事業本部 新規ビジネス推進本部 戦略推進部長の江幡智広氏は、「バリュー事業本部として、以前から住宅や住まいの領域には注目していた。リアルとの接点が強い一方で、IT化が遅れている。もう少し新しいテクノロジによって変えられることがあるのではないか」と語る。
また将来的には、同社が手がける固定通信サービス「auひかり」や、決済サービスとの連携、auのネットワークにつながったIoT家電など、幅広い領域において不動産と組み合わせた新たな価値を提供したいと考えているようだ。
不動産ITベンチャーのイタンジでは、チャットボットによって部屋探しができる不動産賃貸サービス「ノマド」を提供。顧客管理の簡略化や自動返答によってコストを削減することで、一律3万円の仲介手数料を実現している。1月時点で累計ユーザー数は15万人を超えており、質問の約6割をAIが自動返答しているという。
また不動産仲介会社向けには、顧客管理(CRM)と営業支援のクラウドシステム「ノマドクラウド」を提供している。すでに約200店舗の仲介会社が導入しており、都内の約10%の物件取引に活用されているそうだ。また、導入後は繁忙期の申込数が160%になり、来店率が30%上がったという仲介会社もあるという。
さらに不動産管理会社向けには、仲介会社からの電話による物件確認に自動応答するシステム「ぶっかくん(物確君)」を提供している。自動音声でリアルタイムの空室状況や内見方法を教えてくれるもので、大手管理会社の約3割が導入済みとのこと。都内の約2割の物件確認に使われており、月間の受電数は50万件におよぶというから驚きだ。
スマートフォンを使いこなす消費者向けには、AIなどの最新テクノロジを活用したサービスを提供することで利便性を上げ、IT化が進んでいない仲介会社や管理会社向けには、あえてアナログな電話による自動応答システムを提供する――。こうした「業界の課題を本質的に理解している」点が、イタンジとの提携の決め手になったと江幡氏は振り返る。KDDIといちごが、ほぼ同時期にイタンジと接触したことから、3社での取り組みに発展したという。
KDDIとイタンジは今後、空室状況の確認や内見予約などにおいて、入居希望者と不動産会社の双方が、より便利で効率的に賃貸できるソリューションの開発を目指す。具体的には3月以降に、ぶっかくんとノマドクラウドの物件情報を統合し、リアルタイムな物件情報を持つデータベース(リアルタイムDB)を構築する予定。
リアルタイムDBをノマドクラウドと連携させることで、仲介会社によるリアルタイムな物件の空室状況確認と、AIによる自動返答の精度向上を目指すとしている。また、管理会社向けには、内見の予約状況をカレンダーで一元管理し、業務を効率化する「内見予約管理システム」を提供するという。
さらに、KDDI総合研究所とイタンジが協力し、ビックデータやAIに関する技術を活用。入居希望者の好みに応じたタイムリーな物件提案など、新たなマーケティング手法の開発に取り組む。ユーザーの属性を学習することで、部屋の広さなどの条件だけでなく、より個々の生活スタイルに合った物件を提案していきたいという。
KDDI、いちご、イタンジの3社は、これらのソリューションの販売で協力する。KDDIの法人営業の企画力や顧客基盤と、いちごの不動産業界におけるネットワークやノウハウを活用するという。イタンジ代表取締役CEOの伊藤嘉盛氏は、KDDIらのもつ全国に広がる顧客基盤を活用することで、空室率が高く家賃相場も低い、地方の不動産の課題を解決したいと意気込む。また現在は60社のノマドクラウドの導入社数を、3年後に300社まで拡大したいとした。
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