民泊という言葉と共に、すっかり認知されるようになった空き部屋シェアサービスの「Airbnb」。国内外では、Airbnbのビジネスモデルを参考にした類似サービスが後を絶ちません。特に、日本とは規制の異なる海外は、私たちの想像の遥か上をいくサービスが形になりつつあります。
ユニークなアイデアで生まれたシェアリングサービスを知ると、ビジネスパーソンとしてだけでなく、いち生活者としてワクワクしてきます。そして、このワクワクは、テクノロジがアナログ産業に与えたものに他ならないと思っています。身近な「スペース」をテーマにする3回目は、このワクワクをお伝えします。
Airbnbは宿泊施設を提供していますが、業界構造からすればホテル業というより不動産業として捉える方が正しいでしょう。そこでまず、ビジネスモデルから不動産業のIT化を整理したいと思います。
不動産ITサービスの代表的なビジネスモデルは、売り手と買い手をマッチングさせ手数料をもらうモデルと、不動産投資家や不動産デベロッパーに対して情報やツールを提供するモデルの2つがあります。前者のマッチングモデルの中には、国内だと「cowcamo」や「IESHIL」、米国だと「Zillow」など中古物件を仲介するものと、スペースを仲介するものとに分けられ、「Airbnb」など民泊サービスはこのスペース仲介に該当します。
ちなみに、後者の情報やツール提供モデルだと、今後売りに出される物件を推定するビッグデータ分析ツール提供の「Smartzip」(2014年に1200万ドル調達)など不動産業者向けのものや、VRやARなどでインテリアのシミュレーションができる「iStaging」など越境投資家向けのもの、人工知能を使って不動産の成約価格を高精度で推定する「VALUE」など個人投資家向けのものと多岐に渡っています。
情報の非対称性が明瞭であるため、IT化の伸びしろが大きいと注目され、現在米国中心に新しいITサービスが登場しているのがこの不動産業です。その中で、スペースのIT化を推し進めるAirbnbに注目し、圧倒的な成長を遂げる彼らを語る上でシンボリックな3つの数字「230万件」「1億人」「1億ドル」から、スペースがIT化されることの経済的そして世界的インパクトについて考察したいと思います。
まず、230万件ですが、こちらは登録客室数。米ヒルトン、米マリオット、英インターコンチネンタルの3大ホテルチェーンの客室数の合計を上回っています。
次に、1億人は、サービス開始の2008年から2016年夏までの総利用者数。登録客室数がホテルチェーンより多く、かつ安いとなれば、このように利用者が増えるのは必然ですが、ざっと計算すると1日平均3万人強、すごい数です。
最後の1億ドルは、リオ・オリンピック会期中の経済効果に当たります。現地で同サービスを利用したゲストは8万5000人に達し、それにともなうホスト収入は3000万ドルとなったそうです。
スペースがIT化されたことでホテル・不動産市場のパイが増えたということはなく、既存のパイを新興サービスが食うことで、より適切なところに賃料というものが配分されているように感じます。しかし、ユーザーが妥当な宿泊費を享受できることによって、滞在日数や旅行頻度が増え、長期的にはホテル・不動産市場全体がメリットを得られる可能性も出てきました。
また、もし上記の3つの数字以外に付け加えるならば、Airbnbがリオ五輪の代替宿泊施設公式サプライヤーに選定され、都市のインフラとして着実にポジションを確立しつつある点にも注目しなければなりません。東京五輪時に外国人訪日客は20~40万人と推計される一方、都内の客室数は約15万と言われており、Airbnbはじめ代替宿泊施設の活用は不可避とも言えます。
それでは、これほどのインパクトをもたらすAirbnbのような民泊サービスが今まで存在しなかったのでしょうか。スマホの登場が世界を変えたのでしょうか。いや、もちろんそれも後押ししましたが、他にも原因があるように思います。
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