感性を学習するパーソナルAI「SENSY」の基盤化を目指すカラフル・ボードは、多くの事業課題や社会的問題の解決を目指している。その具体的な方法が、2月22日に開催されたイベント「CNET Japan Live 2017」で語られた。
SENSYであらゆる生活を変革させるアイディアは、カラフル・ボード代表取締役CEO 兼 SENSY人工知能研究所代表/公認会計士の渡辺祐樹氏が2007年から2009年まで在籍していた、IBMビジネスコンサルティングサービス時代に生み出したという。
とあるアパレル業界の中長期計画を支援する業務に携わった渡辺氏は、膨大な財貨に驚かされたと振り返る。各業種と比べると、アパレル業界の在庫回転率は小売業や卸売業ではワースト1位。製造業でもワースト3位にランクインする(中小企業庁 中小企業実体基本調査 平成22年)。
アパレル業界で扱う衣類は流行の移り変わりが早く、「突如として不良在庫になってしまう特殊な業界だ」と感じたそうだ。ビジネス的観点から見れば資産の無駄につながり、社会的観点からは資源の無駄遣いになってしまう。そう考えた渡辺氏は、消費者と企業間にある"需給のマッチング"を正しく行うため、SENSYを開発した。衣類在庫問題に限らず、教育格差や食品廃棄問題などミスマッチから発生する数々の社会的課題を解決することが、同社の「社会的使命だと考えている」(渡辺氏)という。
その具体的な手法としてカラフル・ボードは、人が持つ「感性(センス)」に着目した。視覚や味覚といった五感から導き出された感性をAIで理論化する試みは目新しいものではない。そこでSENSYは個々人で異なる感性を、集合体ではなく利用者に特化した形でデータ化し、学習結果から得た"好みのアイテムだけ"を提案する仕組みを作り上げた。
SENSYの研究・開発は2013年から開始し、これまで年1本のペースで特許出願をしているそうだが、すべてを自社開発しているわけではないという。「AIは得手不得手があるため、得意分野を組み合わせてサービスを構築する」(渡辺氏)ため、IBMのWatsonなども含まれているとのこと。
カラフル・ボードはSENSYの精度を高めるため、いくつかの実験を行ってきた。たとえば、洋服の画像100枚を2人の被験者に見せたところ、一方は明度でアイテムを優先し、もう一方はシンプルさを優先した。このような仕組みで洋服の好みを判断し、感性を空間的に形成・解析することで、アプリのリコメンド機能などに利用できるという。
この結果をとあるECサイトに組み込んで、20代の女性がワンピースの検索結果から好みのアイテムを5段階評価する実験を実施したところ、通常の検索結果は高い評価をつけた割合が11%だった。一方で、SENSYによる最適化後はこれが50%まで上昇した。同様の結果は他業種でも改善傾向が見られたことから、「SENSYのアプローチは有効である」(渡辺氏)と強調する。
SENSYをビジネスにつなげていく方法として、渡辺氏は「(SENSYによる)基盤構築だけでは世の中が変わらない」と述べつつ、SENSYを利用したサービスやアプリが世に広まるかが重要だと語る。そのためカラフル・ボードでは、AI開発とともにB2B向けに企業課題や戦略に沿った独自サービスを展開しているという。
具体的には、利用者にSENSY IDを発行し、収集したデータを元に個人向けコンテンツを配信するB2C向けアプリを用意。そこで得た傾向データを企業に提供し、同じようにSENSY IDと紐付いた利用者固有の推奨情報を提示する。
すでにレストラン案内をするアプリ「SENSY bot(ベータ版)」や、SENSY API経由でファッションのコーディネートを提案する実証実験を三越伊勢丹ホールディングスと実施。こちらはSENSY ID以外にトップバイヤーのIDも利用することで、専門家によるコーディネートも受けられるものだ。
さらに、とあるEコーマスサイトとともに、自宅のクローゼットに収納した衣類をデータ化し、SENSYがショップアイテムと手持ちのアイテムを組み合わせることで、自宅の衣類に合わせた着回しを可能にする「SENSY CLOSET@shop」を実験中だという。
この他にも、SENSY IDと連携した「パーソナライズDM」は従来と比べて約150%も効果が改善。三菱食品とともに実証実験したワインのレコメンドサービスでは、過去5回の実施で当初の15%から42.1%まで購入率が上がるなど、高い効果が得られたという。
現在、各分野の大手30社以上との案件が進行中だという。渡辺氏は、「パートナーとトライ&エラーを一歩ずつ進めていきたい」と慎重な姿勢を示しながらも、「『すべての人々に人生が変わる出会い』をAIで提供したい」と、SENSYプラットフォームを用いた社会的問題の解決に向けた強い意志を示した。
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