日経FinTechが2月28日に開催した「Nikkei FinTech Conference 2017」で、SBIホールディングス代表取締役 執行役員社長の北尾吉孝氏は、「FinTechは何を破壊し、何を創造するのか」と題する基調講演を行った。
ソフトバンクグループの創業者である孫正義氏から受け取った5000万円を元手に、55人から出発したSBIホールディングスの資本金は現在817億円。純資産は4074億円に至るまで成長している(2016年12月末時点)。
北尾氏は同社の成長理由として、1999年前後に起きた「金融の規制緩和」「インターネット革命」の2大潮流が大きいと語った。現在はオンライン証券やオンライン銀行などの金融事業分野でトップに立ち、損害保険分野は参入が遅かったものの「順調に成長し、No.1になる仕組みを作り上げた」と北尾氏は自負する。
成長理由の1つである規制緩和に対して北尾氏は、1996~2001年度に政府が実施した大規模金融制度改革「金融ビッグバン」を振り返り、「日本の金融規制担当者の怠慢」(北尾氏)と憤る。米国では1975年5月、英国では1986年10月に同様の規制緩和を実施しており、米国から20年、英国から10年も遅かったためだ。「規制緩和こそが競争を誘発して投資家の利益、顧客の価値につながる」(北尾氏)と述べつつ、各サービスを金融生態系と捉えて連携とワンストップを実現することで、SBIグループを成長させてきたという。
さらに北尾氏は「金融業=情報産業」と定義する。物理的な移動をともなわず、数字やデータのみが取り引き対象となる金融業は"情報集約型ビジネス"の側面が強い。つまりは情報産業そのものだ。同氏は、大手調査会社による、インターネットと金融・保険サービスはもっとも親和性が高いという調査結果を引用し、以下の5つの特性で金融事業は変わったと分析する。
たとえば、SBI証券のオンライン約定手数料と大手証券会社の対面手数料を比較すると、約定代金100万円に対してSBI証券は525円だが、大手の対面手数料は約1万2000円と大幅な開きがある。対面による約定を選ぶのは「よっぽど奇特な人」(北尾氏)と揶揄しながら、自身が21年間勤めた野村証券を指し、「『野村で損した』という人は少なくない」と聴講者の笑いを誘った。
オンライン証券会社に絞ってもSBI証券のベーシス(委託手数料÷委託売買代金)ポイントは年々低下。北尾氏はスタート直後から「手数料を安く。他社に負けるな」と当時の社長に厳命を下したという。ヘーゲルの弁証法にある"量質転化の法則"を引き合いに出し、「量(約定回数)が質(顧客)が変化し、質の変化が量の変化をもたらす。つまり顧客が増えていく」(北尾氏)と、SBI証券の成功に至った理由を説明した。
また、インターネットの普及に伴い情報障壁は消滅し、顧客は賢くスマートになる。その結果として賢く選択する消費者主権の確立と、顧客中心市場の誕生に至ると分析。そのためSBIグループでは、顧客便益性の高い商品を提供することで顧客満足度を高めることを最重要戦略に定めている。その他にも、インターネット上の比較・検索市場に対するアプローチや、PCやモバイルデバイスの普及に伴う対面サービスの衰退、世代交代に伴う所得移管が20~30代に集中するなど自グループの戦略を説明しつつ、「2大潮流に取り残された(金融企業)は、時代と共に競争力を失う」(北尾氏)と語った。
FinTechに対しては、「間もなくブロックチェーンが中核的技術となる2.0の時代が訪れる。16年かけて作り上げてきた(ビジネスモデルが)完成したと思ったのもつかの間だ」(北尾氏)と、技術進歩と自社を取り巻く現状について吐露。約50年周期で経済の波が循環する「コンドラチェフ循環」を引用しつつ、「経済循環は技術革新によって起きる」(北尾氏)と持論を展開した。
SBIグループはFinTech 2.0へ対応するため、AI(人工知能)技術などをオンライン金融生態系で活用し、既存システム上でブロックチェーンの活用を目指しながら、完全な移行を進めようとしている。また、2015年にはFinTech関連企業に投資する「FinTechファンド」を設立し、2016年にはRippleと合併会社「SBI Ripple Asia」を設立して、国際送金コストを約60%も軽減した。
北尾氏は、このような具体的な投資事例を紹介しながら、「FinTechはすでに実践するステージで、お金を生み出している」(北尾氏)と現状を説明。「FinTech技術の導入で(今後の金融業界で)生き残れるかが決まる」と続け、日本がFinTech分野でも後れを取ってはならないと聴講者を鼓舞した。
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