長年培ってきたAI技術を今こそ社会貢献に--ホンダグループの研究機関

 Hondaグループで先端科学技術の研究・開発を担うホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン(HRI-JP)は、最優先の研究課題としてAI(人工知能)の研究・開発に取り組んできた。AIの研究の方向性や活用の考え方について、代表取締役社長を務める辻野広司氏に話を聞いた。

――Hondaグループ内でHRIはどのような役割を担っていますか。

 HRI-JPは、Hondaグループの中で、先端科学技術の研究・開発を専門に担う会社として、日本・米国・欧州で設立されました。とは言え、先端科学技術の研究は、1つの会社だけで実現できるものではありません。そのため、HRI-JPでは、設立当初から、大学や研究機関、ベンチャー企業などと連携し協力しながら研究・開発に取り組んできました。今後は、さらに産業を巻き込む形でエコシステムを形成していく活動を進めていきたいと考えています。

――AIの研究には、どのようなスタンスで取り組んでいますか。

 HRIにとって、AIは、日本だけでなく、米国、欧州も含め、最も力を入れて取り組んでいる研究分野です。特に日本では、設立当初から半分以上の経営資源を投入するなど、最優先の研究課題としてAIの研究・開発に取り組んでいます。

――HRIでは、AIについてどのように定義されていますか。

 一言で言えば、「人間が持っている能力をコンピュータで実現する技術」ということになります。ただ、それでは少し定義が広すぎますので、「何か問題を与えたら、それを自動的に解決する問題解決のための技術」と言ったほうがわかりやすいかもしれませんね。

――今、AIは第3のブームを迎えていると言われますが、最新の技術トレンドについて教えてください。

Hondaグループで先端科学技術の研究・開発を担うホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン(HRI-JP)代表取締役社長を務める辻野広司氏 Hondaグループで先端科学技術の研究・開発を担うホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン(HRI-JP)代表取締役社長を務める辻野広司氏

 最近は、人間のニューラルネットワーク(神経回路)を模倣して物事を学習するディープ・ニューラル・ネットワークに注目が集まり、AIは新たなブームを迎えています。最初のAIブームが到来した1980年代以降は、記号処理を用いたシンボルベースの伝統的なAIが主流の時代が続き、ニューラル・ネットワークは、どちらかというとAIの領域からは遠い存在と見なされていました。ところが最近になって、ディープ・ニューラル・ネットワークの技術が飛躍的に進化し、その有用性が見直されるようになり、AIにおける活用のあり方も大きく変化しつつあります。

――日本において、AIをどのように活かしていくのでしょう。

 AIは将来性のある大切な技術ですが、あくまでも問題を解決するための手段にすぎません。今後は、こうしたAIの技術を、単にビジネスに役立てるだけでなく、社会のために役立てることが重要な取り組みになってくるでしょう。幸いなことに、アジア、とりわけ日本には、社会や人との関わりを大切にする文化があります。日本からAI技術を社会のために役立てるという方向性を世界に発信していきたいと考えています。

――AIを社会に役立てるためには、どのような配慮が必要になりますか。

 新技術は両刃の剣と言われるように、AIにもポジティブな側面とネガティブな側面が存在します。社会に役立てようとすれば、そのリスクを最小化するために力を尽くさなければなりません。

――具体的にはどのようなリスクが?

 例えば、AIの活用によって事故が発生したり、人の仕事が奪われてしまうことは避けなければなりません。もちろん、AIが人類の能力を超越してコントロールできなくなるシンギュラリティ(技術的特異点)の問題にも対応する必要があるでしょう。場合によっては、そうしたリスクを回避するためにAIの技術を活用する、つまり「AIをもってAIを制す」といった取り組みも必要になってくるかもしれませんね。

――ロボットとAIの融合の可能性はどのようにお考えですか。

 ロボットに関しては、ASIMOを提供して以来、現在は第3次のブームを迎えていますが、いまだに本格的な実用化には至っておらず、「産業」に成長しているとは言えないのが実情です。ホンダとしては、人と共存するロボットの提供を目指して開発に取り組んでおり、HRIでも、AIとロボットの掛け算によって新たな可能性を導き出す研究を進めているところです。

――AIの自動車への活用はどのようなイメージでしょう。

 自動車へのAIの活用というと、どうしても自動運転に目が行きがちですが、それだけにとどまるものではありません。AIの活用次第では、自動車そのものがまったく違うコンセプトの商品に生まれ変わる可能性もあります。少なくとも今の時点で言えるのは、自動車分野へのAIの活用はまだ始まったばかりだということです。HRIは常に社会とオープンにコミュニケーションすることを重視しています。特にAIについてはリスクも伴うきわどい技術ですので、新しいアイデアをどのようにトライしていけばよいのか、世の中に問うてフィードバックをもらいながら、研究を進めていくことが重要だと考えています。

――自動車やロボット以外でのAI活用は?

 これは、HRIに限ったことではありませんが、IoT分野での活用が本格化してくると見ています。現時点ではまだ実用的で有用なソリューションは提供されていませんが、そろそろこの分野でも本格的なソリューションが登場してくるのではないでしょうか。そういう意味では、最近当社がNEXCO東日本などに技術提供を開始した対話システムツールキットも、IoT分野でのAIの活用に寄与するものになると考えています。

――2月21日~22日開催の「CNET Japan Live2017~ビジネスに必須となるA.Iの可能性」においてHRI-JPは基調講演しますが、最後にイベントに参加する皆さんにメッセージをお願いします。

 HRI-JPは、AIの研究開発機関として、長年にわたってAIで何を実現でき何を実現できないかについて考察を続けてきました。そういう意味で、イベントに参加する皆さんとは、AIの可能性について深い議論ができると確信しています。

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