財団法人がん研究会(がん研)とFRONTEOヘルスケアは1月31日、がん研が研究開発しているゲノム解析技術とFRONTEOヘルスケアが開発している人工知能エンジンを用いて、患者に最適な治療方法を提供する総合検査システムを共同研究すると発表した。
がん研の研究本部長で、がんプレシジョン医療研究センターの所長である野田哲生氏によると、がん研は2016年10月にゲノム解析技術によってがんの細胞や組織を遺伝子レベルで解析し、患者の遺伝子異変などの状態に合わせて緻密に最適化された医療(がんの個別化医療)の提供を目指す「がんプレシジョン医療研究センター」を設立。この個別化医療を実現するために、緻密化する診断データに対して最適な治療方針を増え続ける論文データの中から探し出す過程において、人工知能を活用したシステムの高機能化は避けて通れない課題なのだという。
今回の共同研究において、がん研とFRONTEOヘルスケアは、ゲノム解析による患者の検査データに基づいて、人工知能が患者の症状や特性に合わせた治療方法に関する論文データを探し出し、医師の判断を支援するシステムを開発するという。がん研がんプレシジョン医療研究センターは、がん患者の遺伝子異常を網羅的に解析する「クリニカルシークエンス」や、血液検査によって遺伝子の異常を調べる「リキッドバイオプシー」といった技術を活用し、がんのゲノム解析情報など患者の診断データを統合・解析する手法を研究する。
一方、FRONTEOヘルスケアは、2016年10月に同社の親会社であるFRONTEOが開発した人工知能「KIBIT(キビット)」を中核技術として開発を開始した「個別化医療AIシステム」のひとつである診断支援システムを用いて、がん医療の知見を基に論文や医療情報を解析する仕組みを研究。患者の検査結果に対して医師の治療方針の判断などを支援する人工知能を提供するという。また、同じく個別化医療AIシステムの機能を活用して、患者や家族に対して治療法や使用する薬剤について説明するインフォームドコンセント支援システムも同時に開発を進めていくとしている。
FRONTEOヘルスケアの代表取締役社長である池上成朝氏は、人工知能KIBITについて、「有用性のありなしに関わらず膨大な量のデータを投入して学習させる一般的な人工知能と異なり、専門家の知見に基づいた少量の良質なデータを学習するだけで良質なアウトプットが可能」と説明。専門家の判断や感覚を学習させることで、暗黙知を踏まえた判断ができる点が技術的な優位性であることを強調した。
その上で、今回の共同研究で開発する個別化医療AIシステムは、あらかじめがん治療の専門家が「有用性がある」と確認した論文データを“教師データ”としてAIに学習させ、膨大な論文データの中から同じ要素を持つ論文を抽出・蓄積。そして、がん研のゲノム解析によって得られた患者の検査データや臨床情報などに対して蓄積された論文を評価し、スコアが高い論文=治療法を医師に提示することで、医師が治療方針を検討する上での判断を助けることができるという。ビッグデータの中から有用性の高いものだけを専門的な知見に基づいて予めセレクションしておくことで、不要なデータやノイズを除去して効率よく人工知能を機能させる。これにより、がん治療の有効性を高めたり、治療後の再発リスクを軽減したりすることが狙いだ。
がん研とFRONTEOヘルスケアによると、肺がん、乳がんの分野で約5年間の共同研究を行い、2022年にはそれ以外のがん領域に展開して実用化を目指すとのこと。また将来的には、がん研が研究するクリニカルシークエンスやリキッドバイオプシーといった診断手法と、個別化医療AIシステムを組み合わせた総合検査システムを、がん治療に携わる外部の病院に提供していくことも構想しているという。
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