国の広さが東京都23区ほどしかないシンガポール人にとって、富裕層に限らず「海外旅行」は欠かせない趣味だ。決済サービス会社Visaが同国で実施した調査「Visa Global Travel Intentions Study 2015」によれば、国民の95%が過去2年以内に海外旅行を経験しているという。
そうした国民の特性に着目し、ユーザー数を伸ばしているのが国内外の旅行情報を配信する「TheSmartLocal」だ。2012年にシンガポールで立ち上がり、それから約4年間で企業規模は50名まで成長している。創業者のBryan Choo氏に、ユーザー獲得の秘訣やマネタイズの戦略について聞いた。
旅行の行き先を検討する際、クチコミやユーザーがつけた点数が掲載されたウェブサイトを参考にする人は多いだろう。Bryan氏も、そんな1人だった。さまざまなサイトを参考にして旅行を楽しんでいたが、あるとき旅行サイトに「疑問」を感じたという。「既存の旅行サイトは、旅行者が感想を投稿することがほとんど。しかし、その土地の本当の魅力を知っているのは、その土地で生活している人のはずで、もしかしたら信頼性に欠けるのではないか」と。
創業当時、シンガポールには各地の魅力を現地の人が紹介するサイトは見当たらなかった。ローカルの人だけが知る、「ハイパーローカル」な情報が集まる場所を作りたい。そう思い、立ち上げたのがTheSmartLocalだった。
TheSmartLocalは、シンガポール版、マレーシア版、オーストラリア版を展開。配信される情報は、「マーライオン」や「マリーナベイサンズ」のような有名な観光地ではなく、シンガポール人たちに愛される地元の屋台料理やショッピングのお得な情報などだ。
たとえば、「シンガポールで30ドル以下で食べ放題を楽しめるレストラン特集」という記事にある情報は、物価が高いシンガポールでは珍しく、「30ドル以下で食べ放題が楽しめるなんてレアな場所だ」「もっとレビューを紹介してほしい」と、ユーザーから好評だ。
記事執筆時点(2016年12月21日)で、サイトのユニークユーザー数は月間約110万人。Facebookページのフォロワーは26万人以上で、YouTubeチャンネル「TheSmartLocal TV」には10万人以上の登録者がいる。シンガポール在住の筆者も最近、TheSmartLocalの名をよく耳にするようになった。着実に国内での存在感は増している。
2012年の創業以来、順調にユーザー数を伸ばしてきた要因をBryan氏に聞くと、コンテンツの質の高さがポイントだと話す。「多くのサイトは過度にSEOを重視し、Googleの検索エンジンに評価されるコンテンツを作って配信している」――日本で問題視されている風潮は、シンガポールにもあるようだ。
「特に意識しているのは、読者の感情とソーシャルメディア。友人に良いものを勧めたり、語りかける内容にすることで共感を誘うよう心がけている」。取材や記事執筆は、地元を知るシンガポール人やフォロワーの多いライター、フォトグラファーが担当。各人の主観をより押し出すことで、読者との距離感を近づけようとしている。
YouTubeの動画制作チームは15名。ブレーンストーミング会議の時間を最も大切にしており、「読者がシェアしたいと感じるか」という観点で取り上げる話題を精査し、編集の仕方も綿密に詰めているという。
マネタイズについて、主な収益源は広告。特に2014年以降、ホテルや飲食店など企業の広告出稿が増え続けている。サイトのみならず、Facebookページ、YouTube動画、Instagramのアカウントでも企業の宣伝を手伝っている。
広告収入と並ぶ新たな収益源として育てているのが、各国の行政と合同で企画運営する観光促進キャンペーン。以前は札幌への観光を促す記事や動画を制作。現在も沖縄旅行に関するキャンペーンを展開中だ。
今後の展望として、5年以内にはタイ版とインドネシア版の展開を予定。また、同社が運営する女性向け美容情報サイト「ZULA.sg」やレストラン情報サイト「EatBook」など3媒体と連携して、取り扱う情報の幅を広げていきたい考えだ。さらに、これらの媒体とのシナジーを生み出す技術開発を計画している。
具体的には、広告主の広告効果を最適化する「メディアオーディット」サービスなど、さまざまな業種の顧客企業やインフルエンサー、他のメディア会社の連携を支援する新サービスを構想しており、これまでとはまったく異なるビジネスモデルになるという。
中間層が拡大し、海外への旅行者も増える中、大手旅行サイトを含む競合企業とどのように差別化を図り、かつさらなる海外展開も進めていくか。日本のウェブメディアにとっても注目したい存在だ。
(編集協力:岡徳之)
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