香港の最貧困層の人びとが、クローゼットサイズの狭小部屋にすし詰め状態で暮らしている写真を見たことがあるだろうか。人口730万を超える香港は世界トップクラスの人口密度を誇る都市だが、その社会階級構造は極めてバランスを欠いたものになっている。
2016年2月に中国の民間調査機関「胡潤研究院」から発表された報告書によると、香港には10億米ドル(約1170億円)以上の資産を所有する富豪が64人住んでおり、世界富豪ランキング4位にランクイン。その一方で、約134万5000人は貧困の悪循環から抜け出せていない。不動産価格とインフレが高騰を続けるなか、雇用の機会は減り、階級格差は広がる一方だ。
住宅購入に必要な頭金は、購入価格の4割程度。2LDKでも日本円で1億円を超えるため、頭金だけでも4000万円は必要となる。コツコツと資金を貯めても、現在の不動産相場では持ち家を持てない人が多い。
今回は、このような世界でも稀な住宅事情に商機を見出し、香港在住の若者向けに展開するルームシェアサービスを紹介したい。
香港中文大学出身の2人が、20万香港ドル(約300万円)を投じて設立した香港のルームシェアサイト「Homates(ホーメイツ)」が、若年層から注目を集めている。2015年11月に香港版をリリースし、現在は台湾版も展開。英語・繁体字・簡体字の3言語に対応しており、サイトでは部屋の検索だけでなく、部屋を賃貸するオーナーを探すこともできる。
予算、賃貸住宅の地域、ルームメートの性別、喫煙習慣、ペットの有無などの条件から部屋を検索することが可能で、20~35歳の利用者が最も多い。設立から半年で2000人超が利用し、うち2割がルームメートを見つけているという。直近1カ月のユーザー数は、新規で約400人増えている。
ユーザーの希望予算は大部分が月額4000~5000HKドル程度(6~7万5000円)で、多くの人が自身の個室があるほかに、共有できるリビングやキッチンがあることを望んでいる。
香港では、社会人になっても子どもは親と同居する文化。親が購入した住宅がある場合は子どもも同居し、2LDK~3LDK程度の間取りに2段ベッドで生活することが多いようだ。結婚と前後して家賃の安い公団住宅を申し込むが、倍率が高く、なかなか入居に至らない。そのため新婚であっても親と同居を続けるケースがあり、日本でよく見られる1人暮らし向けの賃貸物件が少ない。
家賃が手頃なワンルーム(1ベッドルーム)で1万~1万2000香港ドル程度(15万~18万円)からあるが、内見に行くと、日本人の感覚ではとても住めないような、古くて汚い狭小住宅であることが多い。そのため、他国からの留学生や、現地採用やワーキングホリデーで働く単身者は、部屋探しに多大な苦労を強いられることになる。
このような若年層の中には、気持ちの休まらない極小面積の部屋に1人で住むよりも、2ベッドルームの家賃1万6000香港ドル程度(14~15万円)を誰かと折半して、ルームメートと快適な空間で過ごしたいと願う人が多く、需要をつかんでいるようだ。ルームシェアの概念がまだ成熟しておらず、ルームメートを探す方法も少ない香港では、同社のサービスは発展の伸びしろがあると言えるだろう。
若年層に向けて、デザイナーズの学生用シェアアパートメントも生まれ始めている。LYCS Architectureが手掛けた「キャンパス香港(Campus Hong Kong)」は、ホテル内をリノベーションし、48のシェアルームに変身させた宿泊施設。共有スペースとして、リビング、レストラン、トレーニングジムを完備し、宿泊日数は1日から数カ月まで、自由に選択できる。見知らぬ相手と2人きりになるルームシェアに不安を抱える女子学生にとって、1つの選択肢になるかもしれない。
香港政府房屋署によると、15、16年度に完成した公営住宅は、2015年9月末までに2300戸にとどまっている。現状、賃貸型公共住宅の累積入居申請は28万超、申請から入居まで平均3.6年の待機期間を要している。政府は待機期間を平均3年まで短縮することを目標に掲げているが、同署は「今後の申請者増加も予想しにくく、いつ目標を達成できるか推算不能だ」と説明している。
近年、庶民、特に若者による政府への批判も激しく、2014年に起こった民主化デモ「雨傘革命」も、このような香港社会の歪みへの抗議が顕在化したものとも言える。
給料の半分は家賃で消えてしまう、“高い、狭い”香港の住居環境に着目した有益なサービスが、これからも生まれてくることを期待したい。
(編集協力:岡徳之)
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