Oculus Touchと“破壊”が導いた--ジャーナリスト新清士氏がVRゲームを開発した理由 - (page 3)

VRはデジタルとアナログの間にある領域。キーになるのはコミュニケーション

--2016年はさまざまなところでVR元年と呼ばれていましたけど、新さんから見てどう思いますか。

 市場成長という面では、2016年頭に期待していたよりもゆるやかで、パンチ力がなかったように思います。Oculus Riftが製造面でボトルネックを抱えていたようで、生産が遅れたために予約しても手に入れるまでに時間がかかりました。PlayStation VRでも同様のことが起きています。ただ潜在的な需要というか“求めている人”がいるのは間違いないと思うので、早く量産して、多くの人が気軽に入手できる状況になってほしいです。まだVRを体験したことのない方が圧倒的に多いですから、その魅力を伝えて実体験してもらうことが最初の課題。次の課題はハードを購入してもらうことですね。

 ただ、過去の新しいデバイスが登場したときのパターンを考えると、iPhoneにしても登場していきなり市場を獲得したわけではなく、爆発的な普及に至るまで3、4年かかっています。1年目が終わってみて、ビジネス面で見ればVRは期待されていたほどはもうからないという考えを持った方もいるかもしれません。スタートアップとして成功するには、市場の盛り上がりにあわせて、最適なタイミングに、最適なポジションにいることを考えなくてはいけないですし、あと2~3年先に向けてどうやって生き残って行くのかも課題ですね。

 国外に目を向けると、中国においてロケーション型の体験施設をサイドビジネス的に運営するため、HTC Viveが大量に購入されているという話を聞いています。実際、千数百店舗という規模で存在していて、映画館の横にも体験するところがあるぐらいまで広がりが続いている状況のようです。市場拡大の芽は十分に出てきていると感じます。

--お台場で期間限定で運営していた「VR ZONE Project i Can」の反響や、渋谷に開設した「VR PARK TOKYO」などを見るに、今の段階だとVRアトラクションを設置した施設のほうが、一般層にアプローチできるような気がします。

 私も、ロケーション施設のほうから認知が広まる雰囲気を感じています。一方でビジネスとして考えた場合は、取り外しや安全面を考えると、アテンドする人を付ける必要があり、その人件費が運用コストとして跳ね上がります。それは私たちがロケテをしたときも実感しました。ここはこの先、合理化する方法が出てくると思いますし、その知見がたまっていけばVR体験施設がより広まっていく可能性があります。

--体験する人だけではなく開発する人として見ると、裾野は広がっているのでしょうか。

 作りたいと思う人や、実際に作る人自体は増えていると実感しています。ただ、まだまだ足りないです。そもそも、VRコンテンツやゲームにおいての文法と言うべきものが確立されてないと思ってます。開発に1年付き合って、結構面倒なことが多いと感じていますし、それに対する解決方法の答えがでていないものも多いです。今出ているタイトルは、まさに第一世代という感じで、妥協したと思えるポイントが散見できます。自分も「わかるわかる」と(笑)。開発面でもノウハウの積み上げがこの先も必要だと感じています。

--2017年以降はいかがでしょう。

 2017年はグーグルのスマホ向けVRのDaydreamがどのように普及していくかがひとつの注目点です。対応スマホが次々に発表されてくると思われるため、その状況次第では、一般の認識が一変する可能性も秘めています。ただ、スマホVRの場合は、ハード性能に限界があるため、確実に成功するとまではいえません。VRで楽しみたいと思えるコンテンツがいかに生み出されるかどうか。やはりコンテンツも大事ですし、ハードの普及も大事です。OculusやHTC Vive、PS VRではキラーソフトが誕生するかどうかが、市場の展開を大きく変えると思います。

--日本らしいキャラクターコンテンツや、体感をともなうようなアイデアを凝らしたコンテンツだと、海外に向けても存在感を出せるように思います。

 単純に資金力で真っ向勝負する開発では、海外に勝てないことはハッキリしています。ですが、映像表現をリッチに作れば、VRコンテンツやゲームとして面白くなるかと言われると少し違います。キャラクターもそうですが、モーションコントローラを活用した手触り感やハンドアクション、そしてソーシャル的なコミュニケーションに突破口があると考えています。

--よむネコとして、今後はどのように取り組んでいくのでしょうか。

 エニグマスフィアで、VR空間のマルチプレイの実現にこだわった理由にもつながるのですが、今は“デジタルなもの”というのは相対的に価値が下がってきており、むしろ“アナログなもの”のほうが価値が上がっていると捉えています。分かりやすい例として、音楽はネットで無料で聴ける状況になり、ライブの市場が拡大傾向にある状況です。音楽ライブイベントの体験価値というものは、代替できるものではありません。アナログでデータとして残せない“体験価値”が重要な時代になっています。もっとも、ライブを開催する回数は自ずと限界があります。

 そういう時代だからこそ、アナログの体験価値をデジタルで再現する取り組みというのが行われていくものだと思いますし、VRというのは、デジタルとアナログの間にある領域の“体験”を生み出すものだと、仮説を持っています。 そうなってくると、キーになるのはソーシャルやコミュニケーションにあると。リアルな場所で行う脱出ゲームは濃密なコミュニケーション体験が味わえますが、決められた時間に現地に行って長時間拘束される側面もあります。ただ、VRではそれはより容易になります。そのため、コミュニケーション体験も含めた楽しさは、VRで代わりができ、新しいものへと発展させていくことができると考えています。

 そうなってくると、キーになるのはソーシャルやコミュニケーションにあると。脱出ゲームは濃密なコミュニケーション体験が味わえますが、決められた時間に現地に行って長時間拘束される側面もあります。ただ、コミュニケーション体験も含めた楽しさは、VRで代わりがきくものと考えています。

 よむネコとしてはアナログとデジタルの中間を埋めていく存在として、コミュニケーションを広げていく会社でありたい。今回は脱出ゲームですが、ゲームやエンターテイメントコンテンツをひとつのネタにして、ネットワークを通じたコミュニケーションを楽しんでもらいたい。そうしたネタになるコンテンツを提供する会社になりたいと考えています。そして、世界に通用するVRゲームを生み出す会社に成長させていくことが、具体的な目標ですね。

よむネコのロゴに本があるのは、電子書籍サービスを視野に入れていることの名残という
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