Oculus Touchと“破壊”が導いた--ジャーナリスト新清士氏がVRゲームを開発した理由

佐藤和也 (編集部)2016年12月30日 09時00分
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 ハイエンドなコンシューマ向けヘッドマウントディスプレイ(HMD)型のバーチャルリアリティ(VR)システムの発売や、体感できるVRアトラクションが登場するなど、VR関連の盛り上がりから“VR元年”と呼ばれることも多かった2016年に、ベンチャー企業であるよむネコからVR脱出ゲーム「エニグマスフィア ~透明球の謎~」が12月6日に発売された。

 これはVRシステム「Oculus Rift」に対応するハンドコントローラ「Oculus Touch」を活用し、2人同時プレイが可能なVR脱出ゲームだ。プレーヤーの分身となるアンドロイドを操作し、惑星破壊兵器の施設に潜入。制御装置であるスフィア(透明球)をハンマーによって破壊することが目的となっている。ハンマーを手に持つという手触り感やスフィアを破壊するという爽快感、そしてマルチプレイによって味わえる連帯感などが魅力となっている。

 よむネコは、ジャーナリストの新清士氏が代表を務めるベンチャー企業。新氏はゲーム会社の開発職を経て、デジタルゲームの動向を追うジャーナリストとして活動。またIGDA(国際ゲーム開発者協会)日本のファウンダー(創始者)として長年携わり、国内における開発者のコミュニティ形成にも一役買っていた。近年ではVR市場の盛り上がりに早くから着目し動向も追っている。

 開発にあたっては、gumiの100%子会社で、VR関連のスタートアップを支援する「Tokyo VR Startups」プログラムへの応募を経てプロジェクトを本格始動。さらに11月にはgumi、みずほ成長支援第2号投資事業有限責任組合、ヴァンガードの3社からの資金調達を行ったという。このTokyo VR Startupsには、新氏も取締役として加わっている。

 今回なぜVRゲーム開発に取り組もうとしたのか、そしてVR元年と呼ばれた2016年の振り返りも含めて新氏に聞いた。

新清士氏
新清士氏

資金的な支援の仕組みの必要性から立ち上がった「Tokyo VR Startups」

--まず、VRゲームの開発を始めることにした経緯を教えてください。

 VRゲームを作りたいと思ったのは、Oculus Touchを触ったときに大きな衝撃を受けたこと。そして、会社としてVRゲーム開発に取り組むことにしたのは、Tokyo VR Startupsの設立に携わり、自らも応募して支援を受けられたこと。この2つが大きなきっかけとなって今に至ります。

--Tokyo VR Startupsは新さんも取締役として名を連ねていますが、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

 2015年10月に、米国ロサンゼルスで開催されたOculusの開発者会議「Oculus Connect 2」の報告会を東京で行った際に、gumiの國光さん(代表取締役社長の國光宏尚氏)とお話したのがきっかけです。以前からもVR市場の動向は追っていましたが、2015年の段階で海外での熱量がすごく高まっているのを感じていたんです。と同時に、明らかに米国におけるお金のかけ方が違い、動きが早い。それを見て、このままでは日本がVR領域で立ち後れる危機感を感じました。

 日本でも、大手ゲームメーカーの一部で開発にに乗り出しはじめましたし、草の根的な個人開発でも盛り上がりはみせていました。VRコンテンツの開発者コミュニティも形成されつつあり、草の根で活動していた人たちによる発表の場も生まれてきました。しかし、大半は個人の趣味で作っているもので規模が小さく、その状態から本格的にビジネスを生み出していくには、資金的な支援の仕組みがない。それが米国との決定的な差であり、違いだと感じていました。

 半年でもプロトタイプに集中して取り組む環境があれば、製品として生み出されるものも多くなる。そういった仕組みと底上げが必要という話をしたら、國光さんも同じように考えていたようで、支援する会社を立ち上げようという流れになりました。また、仕組み作りの段階で、10年以上インキュベーターとして活躍しているブレイクポイントの若山さん(代表取締役社長の若山泰親氏)と知り合うことができて。支援や運用経験だけでなく、レンタルオフィスも持っていたので、そこを活用しようと。それで1カ月ほどでまとまって、11月にはTokyo VR Startupsの立ち上げ発表と、支援プログラム1期生の募集を開始しました。

--1カ月間で立ち上げというのは、かなり早いと思います。

 私も相当早いと思っていますが、これぐらいのスピード感が今の日本には足りないところかもしれません。それに投資をしたい会社があって、応募したいと思っている人たちがいて、そして仕組みも作ることができて、場所もある。やらない理由はありません。第1期には30社(団体)からの応募があって、最終的には5社を選定しました。

 2015年だと国内では「話題にはなっているけど、VRは本当にくるの?」と半信半疑な雰囲気だったと思います。このあと、2015年12月にコロプラさんがVR関連のファンドを立ち上げ発表をして、2016年はVRを取り巻く状況や雰囲気が投資の面でも劇的に変わっていったと思います。

--第1期として30社の応募数は想定していましたか。また選定した企業がどういうポジションまでいくことを望んでいるのでしょうか。

 応募数は想定していたよりもはるかに多かったですし、どの企業を選ぶかは本当に悩みました。最低でも5社のうち1社は次のステージといいますか、追加の投資を受けるところまで持っていかなければならないというのが責務としてありましたし、将来的には世界に通用するところまで成長していけるかという観点からも選考しました。一個人としては応募する立場と選考する立場の両方があったので、複雑な気分でいました。

 結果的にはVRアプリ制作クラウドツールを開発するInstaVRが、8月に総額約2億円を調達したのをはじめ、3社が追加の投資を受けることに成功しました。その後第2期も行いましたが同程度の応募があり、4社を選んで各社が取り組んでいます。

--追加の投資を受けた1社にはよむネコも入っています。

 そうですね。よむネコに投資をしてくれた1社は、みずほグループのみずほキャピタルなのですが、銀行系のファンドがVR関連のゲーム専業のベンチャー企業に投資するのは初めてと伺っています。ベンチマーク的な意味合いがあると推察しているので、この後に続く多くのベンチャーの環境作りを構築する意味でも、責任あることと感じています。

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