アールエスコンポーネンツジャパンは12月13日、「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」の産みの親であり、同財団の代表を務めるエベン・アプトン氏の来日に合わせ、最新動向や日本市場に関する記者会見を開催した。
Raspberry Piは、ARMプロセッサをベースとしたシングルボードコンピュータ。2011年5月に販売を開始し、安価かつ高い拡張性を備えることから、ホビーユースをはじめ教育機関、産業用の組み込み用途などで受け入れられ、出荷台数は現時点で1100万台を突破。向こう3年間で台数を2倍に伸ばす計画を掲げている。
アールエスコンポーネンツは、電気・電子部品などを中心に2500以上のブランドを取り扱う英国の専門商社。Raspberry Piを取り扱う2社のうちの1社で、世界32カ国で展開する強力な販売網を生かし、初代モデルから製造・販売面でのパートナーシップを締結している。
Raspberry Piは、初代モデルの「Model A」「Model B」を皮切りに、2015年にはクアッドコアCPUや1GバイトのRAMを搭載した「Raspberry Pi 2」、64bit対応のクアッドコアCPUにWi-Fi、Bluetoothを内蔵した「Raspberry Pi 3」と進化している。また、5ドルの低価格を実現した「Raspberry Pi Zero(日本未導入)」や、産業用の「Compute Module」などさまざまなラインアップを有している。
アプトン氏がRaspberry Piを開発した背景には、学生のコンピュータサイエンスにおけるスキルの低下があるという。Raspberry Piのアイデアを思い付いたのは2006年。当時、英ケンブリッジ大学のコンピュータサイエンス分野で教鞭を取っていたアプトン氏は、大半の学生がアセンブリでプログラミングできた90年代中ごろと異なり、年々コンピュータサイエンスを志望する学生が減少し、「HTMLでウェブページを書いたことがある程度」まで、スキルが低下していることを課題に感じていたという。
その理由を考察したところ、80年代の子どもはMSXマシンやシャープの「X68000」、コモドールの「コモドール64」といったマシンでプログラミングを経験したことがあるからだという結論に達したという。同氏は、子どもたちが再びコンピュータサイエンスに興味を持ってもらえるよう、「プログラミング可能なもの」「おもしろいもの」「頑丈」「安価(教科書と同じ25ドル程度)」の4要素を持つコンピュータの開発プロジェクトを開始した。
2008年には非営利財団を設立し、同年には試作品が完成している。量産にあたっては、財団を立ち上げた6人それぞれがお金を出し合って1万台を作る資金を用意していたが、そもそも売れるのか、資本的に十分なのか、すべての子どもに行き渡らせることができるのか不安だったという。そこで、2011年にアールエスコンポーネンツとライセンス契約を結び、製品製造契約に合意。2011年5月に発売したところ初日で10万台が売れたという。アプトン氏は「“1万台売れるのか”という心配は2時間しか続かなかった」と語る。
Raspberry Piは、RSコンポーネンツから委託を受ける形で英国内にあるソニーUKの工場で作られている。当初は中国で製造していたが、「想定よりもコストが上がらないことがわかった」として、半年後に英国生産に切り替えた。この流れを受け、国内で流通するRaspberry Piに関しても、ソニーの稲沢工場で製造を開始しているという。
アプトン氏は、「非常にローコストのコンピュータを先進国でも作れる先進的な取り組み。早くMade in JapanモデルのRaspberry Piを見てみたい」と語った。
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