続いて、IESHILの事業責任者である芳賀氏が、日本の不動産ビジネスにおける課題とIESHILが目指しているReal Estate Techについて語った。
芳賀氏は、今後日本が直面する人口減少と近年の新築住宅供給過多の現状、日本国内における中古住宅の流通が全体のわずか14.7%(17万戸)に留まる点などを取り上げた上で、今後の空き家率が2020年には20%、2040年には25%、さらに2095年には全住戸の半数に迫る45%まで上昇するという試算を紹介。
日本が直面する未来として、「誰もいないアパートが増加し、住宅街は閑散とする。空き家が増えることで、建物老朽化による崩壊、いたずらや不法侵入、ゴミの不法投棄、雑草が害虫など、住環境を脅かす様々なリスクが考えられる。次の世代が安心して生活できる住環境のためには、新築中心のビジネスから既存住宅を大切にするビジネスへと転換しなければならないのではないか」と提言した。
その上で、Real Estate Techによって中古住宅流通市場を活性化することで課題を解決したいという考えから、IESHILは生み出されたのだという。このIESHILが解決を目指す不動産業界の課題について、芳賀氏は「不動産仲介業務の効率性」「不動産価格の透明性」「瑕疵担保責任」という3点を取り上げ、Real Estate Techが今後発展していくための要望をまとめた。
芳賀氏は、日本生産本部の労働生産性統計のデータによると不動産業界の生産性=業務効率が他の業界と比較して低い点や、電通の統計によると住宅・不動産業界のフリーペーパーにおける広告宣伝費が高く、折り込みチラシやダイレクトメールなど非効率な広告手法が集客の中心になっている点、不動産仲介業における業務の20%近くを集客に費やさなければならない点など、不動産ビジネスが抱えている課題を指摘。
不動産取引にまつわる様々な業務を分業しながら効率的な取引を行っている米国の事例と比較した上で、「日本の不動産仲介業では、売り手・買い手ともに営業担当者の業務範囲が広すぎるのではないか」と提言した。
また芳賀氏は、不動産価格について「消費者はオンラインで販売価格しか分からず、その物件の適正価格を知ることはできない。結果的に、実際に不動産店に行き営業担当者に教えてもらうしかない」と指摘。その際も、不動産価格の評価は過去の取引実績をベースとして相対的に判断する取引実績比較法が主流である点を紹介し、「データから適正価格を導き出すということは、本来ITの得意な領域。商品価格や金融領域などにおいては、統計分析のプロフェッショナルな技術が活用されている。
現在は業者間流通に限定されているレインズ(不動産取引情報のデータベース)のデータをインターネット事業者に開放してもらえれば、より透明性のある価格情報を消費者に提供できるのではないか」とReal Estate Techの可能性を示した。
加えて芳賀氏は、不動産における瑕疵(修繕が必要な個所)の担保やアフターサービスについて、食品業界において食品表示法の規則により品質や原料の表示が義務づけられている例を挙げたうえで、「現在、瑕疵担保責任は売り主にあり、個人レベルでは認知できない瑕疵が多すぎて売る際の不安材料になり、また買い手は購入して住んでみないと瑕疵に気づけないため検討時に疑心暗鬼になる」と指摘。
この点については、2018年からはインスペクション(住宅診断の確認)が義務化されたり、住宅瑕疵担保保険が増加したりといった制度の拡充が進んでいる点を紹介した。
こうした課題を提起した上で、芳賀氏は今後Real Estate Techが発展していくために、レインズデータのインターネット事業者による活用の承認、宅建業を営む上での事務所規定の緩和(無店舗経営の容認)、契約や重要事項説明のオンライン化の容認、手数料率の見直しなど、不動産取引を巡る法規定の見直しを要望としてまとめた。
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