東京大学の出身者が立ち上げた、いわゆる「東大発ベンチャー」が増えている。経産省が4月に発表した「大学発ベンチャー調査」によれば、2015年の東大発ベンチャーの数は198社で、2008年の125社から大幅に増加。国内の他大学と比べても、2位の京都大学(86社)や3位の大阪大学(77社)を大きく引き離し首位となった。
また近年は、東大が強みとしてきたヘルスケア・バイオ領域だけでなく、ICTやものづくり領域のベンチャーも目立つ。たとえば、家庭用プリンタで電子回路を印刷できるツールを開発したAgICや、低価格なデバイスをクルマにつけるだけで運転スピードや燃費を把握できるサービスを運営するスマートドライブ、ビッグデータ解析によって経済統計のリアルタイム化や企業の経営戦略の可視化をするナウキャストなどだ。
「東大で起業が盛んになっていることは間違いない。数年前とは状況がかなり変わっており、保守的な印象が強い東大でもベンチャーは珍しくなくなっている」――。東大と密に連携するベンチャーキャピタルである、東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長 マネージングパートナーの郷治友孝氏は、東大発ベンチャーの現状をこのように語る。
UTECは、東大のさまざまな研究成果を生かして、産学連携で新たな価値を生み出すことを目的としたベンチャーキャピタルで、国立大学が法人化された2004年に設立された。これまでの10年以上に渡る活動で、総額300億円規模の3つのファンドを組成。会社設立前のシードを含むアーリーステージのベンチャーを中心に約70社に投資しており、そのうちの9社が上場、8社がM&A(合併・吸収)を果たしているという。
そんな数多くのベンチャーを支援してきた郷治氏は、東大から次々と起業家が誕生している理由について、いくつか要因があるとしながらも「成功事例が増えてきたことで好循環が生まれているのではないか」と語る。たとえば、東大発のロボットベンチャーであるシャフトは、2013年11月にグーグルに買収され注目を集めた。こうした事例が、東大生が起業に目を向けるきっかけになっているというのだ。
ここ数年はベンチャーキャピタルから数億円、数十億円という大型の資金調達をするベンチャーも増えており、日本において起業しやすい環境が整ってきていると言える。そのような背景もあり、東大においても起業への抵抗感は下がっているのではと郷治氏は見ている。さらに、アイデア先行型のウェブサービスが評価される時代から、IoTなどのものづくりや、より産業にインパクトを与える製品やサービスが求められる時代へとシフトしていることも、研究を強みとする東大とは相性がよさそうだ。
また、UTECや産学連携本部、知財を管理する東京大学TLO(Technology Licensing Organization)などが、長年にわたりベンチャーを支援してきたことも大きい。経営者を講師に招き、数カ月にわたり起業家を育成するプログラム「東京大学アントレプレナー道場」を2005年度より実施しており、過去11年間で2000人以上が参加しているという。第12期となる2016年には、ユーグレナ代表取締役社長の出雲充氏、Gunosy代表取締役CEOの福島良典氏などの東大出身者が講師を務めている。
東大が企業と製品を共同開発したり実証実験をしたりするケースも少なくない。4月には、NTTドコモと不整脈を発見するアプリ「HearTily(ハーティリー)」を開発。また、8月には三菱電機と、監視カメラの映像から混雑状況をリアルタイムで予測する技術を開発した。さらに、授業の一環で生徒が企業と共同研究することもあるそうだ。「企業は従来、自前の研究所などで製品を開発してきたが、それだけでは限界があるという意識が高まってきているのではないか。東大というよりも企業側のマインドが変わった」(郷治氏)。
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