こうしたポジティブな側面がある一方で、課題もあると郷治氏は語る。それは、研究を強みとする東大生には、経営者に向いた人材が圧倒的に少ないことだという。いくら優れた研究成果があっても、ビジネスにつながらなければ、その先には続かない。
そこでUTECでは、ベンチャー企業の立ち上げ期などに、“経営者探し”を手伝っているという。たとえば、ペプチド治療薬を開発するペプチドリームは、経営者の候補を探し続け、4人目で現社長の窪田規一氏と出会い創業した。
東大発ベンチャーと海外の事業者との統合を支援するといったユニークな事例もある。医療機器向けの滅菌技術を開発したサイアン社は、日本では規制の問題で医療機器メーカーに売り込むことができないという悩みを抱えていた。そこで、海外に目を向けると、米国にも同様の滅菌技術を事業展開しようとしているNoxilizerという企業があることを知った。サイアンは開発力に、Noxilizerはマーケティングに長けていたことから、双方の強みを生かすために、経営統合という道を選んだという。
「研究者と経営者の資質はまったく違う。大学発ベンチャーへの支援で大切なことはお金よりも経営サポート」(郷治氏)。UTECでは今後も、経営者のネットワークを広げながら、それぞれのベンチャー企業に適した経営者を紹介できる体制を強めたい考えだ。
経営者問題に加えて、もう1つ危惧していることがあると郷治氏は話す。それは、起業やマネタイズばかりに集中し、最も大切にしなければならない“基礎研究”が疎かになってしまうのではないかということだ。「国に研究費などの予算をカットされ、研究室に残っていても将来が見えないから起業するというネガティブな理由もある。何でも外に出して事業にしたら研究が続かない」(郷治氏)。
最近では、オートファジーの研究で大隈良典氏がノーベル医学・生理学賞を受賞したが、大隈氏がオートファジーの研究を始めたのは約30年前。好奇心から研究を始め、何の役に立つか分からないものが、ある日、予想もしなかった形で化学反応を起こすこともある。そうした“本質”を忘れず、東大ならではの高い研究力を持ったベンチャーを、これまで以上に生み出せる環境を作りたいと郷治氏は話す。
UTECでは、東大をロールモデルに、国内外の大学や研究機関、企業との連携を強めることで、エコシステムを作ろうとしている。すでに名古屋大学、大阪大学、九州大学や、カリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学、カーネギーメロン大学などと連携して、大学発の研究成果や技術からイノベーションを生み出そうとしているという。
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