ここまでは、デジタル変革を実現する上での初期段階(始動、着火ステージ)でやるべことができているかを確認してきた。ここからは、変革を一時的な取り組みではなく、持続性のあるものとして定着するための取り組みの視点(業務プロセス、組織・評価、マインド)を確認していく。
まずは、業務プロセスだ。これまでの業務プロセスを見直しつつ、しかも単発で終わらずに、継続的なPDCAを回して改善しているかがポイントになる。GEでは、「リーンスタートアップ」の著者、エリック・リース氏の監修を得て独自に「FastWorks」という手法を開発し、使用している。
これは、ソフトウェア業界で一般的なアジャイル開発(最小限の機能で製品を作り上げ、ユーザーからの意見を取り入れて改良するという短期間のサイクルをスピーディーに繰り返す方法)を、製造業のGE流にアレンジしたものだ。
これを概念ではなく、全社員の日々のビジネスや業務に実際に使用するツールへと落とし込み、「定型化→明示(行動規範との連動、社内トレーニングの実施)→アクション」というGEの文化として根づいているプロセスで浸透させている。
次に確認すべき点は、「組織・評価」だ。デジタル変革に合わせて組織構造を柔軟に変更しているか、ビジネスモデルや業務プロセスに合わせて働き方や評価システムも見直しているかがポイントになる。GEが推進している評価システムの見直しは、単なる評価項目の追加ではなく、企業の評価システムのあり方自体を根本からひっくり返すような大胆なチャレンジだ。
これまでは、大半の企業と同じように1年を振り返って評価を決めるものであった。それを、通年で対話をもって頻繁にフィードバックを繰り返し、これからどうアウトプットを高めていくかを話し合い、行動と成長を促進するプロセスへと変更しようとしている。このシステムは試験運用が終わり、来年から本格的に導入される予定だ。
最後は、「マインド」だ。最も時間がかかり、変えることが難しいものであるが、マインドを変えることで初めて変革が定着する。不確実で、変化が激しいデジタル化した世界では、実験的なマインドを持って新しいことにチャレンジしているかがポイントになる。
GEでは、先述したFastWorksのベースになっているリーンスタートアップなどを中心に、役員クラスなど30万人以上の全社員に学ばせた。リーンスタートアップのメンタリティをいかに大規模な製造業に組み込めるかを追究し、具体的な方法論に落とし込むとともに、経営トップの強いメッセージや、評価制度の見直しなどにも着手したことで、短期間でマインドチェンジが促進された。
診断カルテの7つの視点(目的、業務範囲、中長期戦略、経営コミット、業務プロセス、組織・評価、マインド)をベースに、デジタル変革のお手本であるGEを例にどのような取り組みをしているか紹介したが、GEの取り組みをそのまま日本企業に応用しようとしても、前提条件にさまざまな違いがあり、難しい面も多い。
次回のコラムでは、より身近な事例として、日本企業でのデジタル変革の取り組みを紹介していく。
村澤典知
戦略コンサルタント。インテグレート執行役員。
一橋大学経済学部卒。トヨタ自動車、博報堂コンサルティング、A.T.カーニーを経て現職。国内大手企業を中心に、成長戦略の策定、新規事業開発、新商品/サービス開発、デジタル変革、マーケティング組織再編等、10年間で約100に及ぶプロジェクトに従事。「カスタマーセントリック思考」、「最新マーケティングの教科書2016」等、執筆多数。
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