地上200mの高層ビルから落ちてしまうかもしれない――。仮想現実(VR)だとわかっていても思わず足がすくんでしまう体験ができるのが、バンダイナムコエンターテインメントがお台場で手がける「VR Zone Project i Can」。
さまざまあるコンテンツの中で圧倒的に新しいのが「極限度胸試し 高所恐怖SHOW」です。
HTCのハイエンドVRゴーグル「Vive」を装着し、両手両足にはモーションセンサをつけてエレベータに乗ります。地上200mでドアが開くと、眼下には都心の光景が広がり、足元から突き出した5m前後の細長い板の先にいる子猫を救出しなければなりません。一歩、また一歩と足を前に進めると板がぐらっと揺れ、その瞬間に迫ってくる恐怖感はかなりのものです。
VRゴーグル、またはVR用のヘッドマウントディスプレイ(HMD)自体は約50年前から考えられていたものの、Facebook、Googleなどが積極的に投資をしていることもあり、この1~2年で大きな注目を集めています。
米国の調査会社ガ-トナーが毎年発表する「先端テクノロジのハイプ・サイクル」は、新しいテクノロジがどのように受け入れられているかの調査結果を示すものとして広く参考にされていますが、2016年版ではVRが「過度な期待」「幻滅」を経て普及に向けた「啓蒙」の時期に入ったとしています。
「AI」「IoT」と同様に「VR」といったとき、概念として拡がりがあります。VRゴーグルを装着して体験する360度の仮想空間を指すこともありますし、バーチャルアイドル「初音ミク」のライブのように3DCG映像を指すこともあります。
こうしたさまざまな拡がりの中で期待と幻滅を繰り返し、1つ、2つと世の中に受け入れられるものが出てくるのでしょう。VRでいえば、人工的に作られた空間や物体をいかにリアルに体験させることができるかが最も大きな期待であり、課題としてあり、「没入感があるか?」と言う表現が使われます。
没入感を高めるという課題に対する解決手段として、360度のパノラマ映像という方向性があり、また2DCGではなく3DCGという方向性もあります。FOVEが開発中の視線追跡という方向性もあります。
バンダイVR Zoneの「極限度胸試し 高所恐怖SHOW」が明らかに示しているもう1つの方向性は、ユーザー位置との同期です。VRゴーグルを通して目にしているのは100%人工的な光景であるとしても、前後左右そして上下への移動がダイレクトにVR空間内で反映され、自らの身体を通した強い現実感が得られます。
少しかがむと視界も少し下がるのですが、これは体験してみると些細なことのようで、後ろを振り向いたら後ろの光景が見えるといったあくまで固定された定点で得られる没入感とは異質なものです。
拡張現実(AR)はVRではないという見方もありますが、この没入感は、ARの分野で今年社会現象にまでなった「Pokemon GO」において、スマホを手にしたユーザーの移動がそのままゲーム内でのユーザー位置となることと重なります。リアルで歩くとバーチャルで位置情報が同期され、バーチャルの中を歩いているともいえますし、リアルにバーチャルが溶け込んでいるともいえます。
ここまで大規模に多くの人が実際に体験したことで、人工的な世界に全身で強いつながりを感じさせるというアプローチは一つの流れになるのではないでしょうか。たとえば、Pokemon GOを開発したNianticが保有する2013年7月31日出願、2015年12月29日付けの米国特許第9226106号では、各プレイヤーのリアルにおける移動がバーチャルにおいて同期されることを大前提として、プレイヤー間のコミュニケーションを各プレイヤーの位置データなどに基づいてフィルタリングするという発明がいち早く考えられています。
没入感を高めるという課題に対して効果的なアプローチが実証されていくこの様子は、「VR/AR」というビッグワードが具体的なインベンション(発明)として、そしてイノベーションとして世の中を実際に変えていく現場を目撃しているようでもありますね。
「VR Zone」「Pokemon GO」という事例の後、みなさんは次に何を発明しますか?
ご質問がありましたらTwitterで。
大谷 寛(おおたに かん)
弁理士
2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2014-2016年 主要業界誌二誌 Managing IP 及び Intellectual Asset Management により、特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。
専門は、電子デバイス・通信・ソフトウェア分野を中心とした特許紛争・国内外特許出願と、スタートアップ・ベンチャー企業のIP戦略実行支援。
Twitter @kan_otani
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