ソーシャル・キャピタルの醸成による組織パフォーマンスの向上

長浜洋二(NPOマーケティング研究所)2016年09月23日 08時00分
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 NPOをはじめとするソーシャルセクターでは、「ソーシャル・キャピタル」という概念が地域や社会の課題解決に向けた重要な要素として位置づけられている。一般的には、社会関係資本と呼ばれ、物的資本(フィジカル・キャピタル)や人的資本(ヒューマン・キャピタル)などと並ぶ概念とされている。

 米政治学者ロバート・パットナムは、「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴」と定義しているが、分かりやすく言うと、地域における人と人、住民同士のつながりによって安心感や充実感が高まり、人々の生活が豊かになるということだ。

 ソーシャル・キャピタルの醸成が、地域の安全や安心、高齢者の住みやすさ、子育てのしやすさ、健康の増進、教育水準の向上などに寄与するのだ。

 内閣府が2003年に発表した報告書で、ソーシャル・キャピタルが国民生活に影響を及ぼす可能性が紹介されているが、ソーシャル・キャピタル指数と刑法犯認知件数および合計特殊出生率との相関関係を都道府県別に分析した結果、ソーシャル・キャピタルが豊かな地域ほど、犯罪率は低く、出生率は高いことが明らかになっている。

 こうした特徴を持つソーシャル・キャピタルであるが、その概念は地域やコミュニティの活性化などに限定されるわけではなく、企業の世界にも当てはめることができる。

 企業全体のパフォーマンス向上のベースには個々人の能力があり、研修や資格取得などにより、それらをある程度醸成することができるが、自ずと限界がある。最終的には、社員同士の良好な関係をどのように構築し、維持していくかが重要だ。

 社内の人間関係構築の機会としては、公式な業務を通じたコミュニケーション以外に、飲み会、たばこ部屋での会話、部門横断的な集合研修、慰安旅行、社内運動会、社宅の夏祭りなどがあげられるだろう。

 実際に「飲みニケーション」をつうじて、普段言えないような仕事の愚痴や不満などを共有することで、お互いの距離が縮まり、仕事がしやすくなる。また、たばこ部屋でしか入手できないシークレット情報を手に入れることで、仕事が進めやすくなったりということを経験した読者もいるだろう。

 残念ながら昨今では、基本的な人間関係のスタンスや社会環境の変化により、飲み会やたばこ部屋など、ソーシャル・キャピタルを醸成する機会が減少している。

 企業としては、こうした状況に対応するため、社内ソーシャル・キャピタルを生み出し、育んでいくための様々な仕掛けや社内制度、社員同士がつながるきっかけとなるコミュニティを提供しなければならない。

 これには、ジョブローテーション、席替え、部署内のレイアウト変更、誰でも気軽に使える社内コワーキングスペースの拡充、ITツールを活用した社内SNSの提供、他部門の社員とのランチや懇親会への一部費用負担などがあろう。

 最近では、社員の健康づくりという側面もあるが、ソーシャル・キャピタルを醸成する場として、運動会が見直されており、その企画運営を専門に行う代行会社も登場している。

 さらには、社内にボランティア制度も効果的だ。社員同士が本業以外のプロジェクトを通じてつながりを深めながら、地域社会ともつながりを持ち、地域住民やNPOなどとコミュニケーションを図ることで、社内にも地域にもソーシャル・キャピタルが生み出される。

 また、社内のソーシャル・キャピタル醸成の場を意図的に社外に求めることで、社員は何が地域や社会で起こっているのかを肌で感じることができ、最終的には本業におけるアイデアやイノベーションの創出につながる可能性があるのだ。

 いつの時代も企業の礎は人。社員同士のコミュニケーション活性化によるソーシャル・キャピタル醸成を促すためにも、企業にはこれまで以上に戦略的なつながりの仕掛けが求められる。

◇ライタープロフィール
長浜 洋二(ながはま ようじ)
株式会社PubliCo 代表取締役CEO。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利 シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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