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400m画面スクロールの“苦行”が生む体験--「くばら あごだしチャレンジ」誕生秘話 - (page 2)

400mスクロールという“苦行”が引き起こすエクスペリエンス

毛利氏:首都圏の駅に400mの連貼広告を出し、掲出時は真っ白だったものが、ライブペイントによって徐々にトビウオの絵に変わっていくという案がありました。また、渋谷のハチ公前から400mのポイントが代々木公園にあたるので、朝の誰もいない時間帯にトビウオの目線でカメラを回しながら400mを歩き、ムービーにして拡散させようという案などもありました。

 企画の初期段階から、「くばら」や「あごだし」のフレーズを脳裏に焼きつけていただくことが最重要課題だったので、とにかく話題性のあるアイデアを出しました。

久原本家グループ本社 マーケティングサービス部 齊藤珠美氏
久原本家グループ本社 マーケティングサービス部 齊藤珠美氏

齊藤氏:どれもすごく面白いアイデアですよね。ただ、たとえばライブペイントの場合、どなたかアーティストの協力を仰ぐ必要があります。すると企画自体が話題になったとしても、ユーザーにはアーティストの名前が強く焼きついてしまいます。すでに認知度の高いブランドや商品であれば別ですが、弊社の場合は、アーティストのインパクトが先行してしまう可能性があったので、こちらからNGをお出ししたんです。

――ユーザーに対してブランドの存在を確実に焼きつけると同時に、実現しなかったアイデアにも「400m」というフレーズが登場します。トビウオの飛行距離である「400m」という点も、初期段階から外せないポイントだったのでしょうか。

毛利氏:そもそも「トビウオが400mも飛ぶ」ということだけでも驚くじゃないですか。「そんなに飛ぶの?」って。そのインパクトはもちろん、あごだしが非常に澄んだ色をして上品な味わいなのは、トビウオの飛行距離に関係しているとも言われていると知り、衝撃を受けました。

 トビウオは跳躍を可能とするために胃を持たず、だから排泄物も溜め込まず、脂肪分も少ない。それゆえのおいしさという、くばらブランドが持つ強みを印象付けるためにも、早い段階から大切にしていた部分です。その部分を体験として表現したのが、ユーザーが自分自身の指で400m分をスクロールするという、今回の施策です。


上層部の「Yes」を引き出した、到達点が明確ゆえのロジカルな説得

齊藤氏:体感という部分で、毛利さんから「これだけの苦行であれば、間違いなく話題になるはずです」と、なかなかインパクトの強いご提案をいただきました(笑)。けれど単にユニークなだけじゃない。弊社の商品に通じる、しっかりと一本の筋が通った企画なんです。

――「面白さのなかにも一本の筋」というのは、プランナーとして肝に銘じるべき言葉ですね。つい面白い方向に、面白い方向にと行きがちなので……(苦笑)。しかし、筋が通っていても、これだけとがった企画ですと、上層部の方を納得させるのは容易ではなかったはずです。

齊藤氏:それが「いいね、面白いんじゃない?」と、意外にもすんなり受け入れられたんです。ただ、正式なゴーサインが出たあとに、アイデアが形になっていくに従って「本当に大丈夫なの?」「クレームがくるんじゃない?」「そもそも商品がアピールできていないじゃないか」といった、マイナス要素の指摘をされることが多くなりました。

――僕も実際にトライさせていただきましたが、30~40分もスクロールを続けるのは予想以上にしんどい。このしんどさこそ、バズった最大の要因だと思うのですが、商品を打ち出していないことも含め、難色を示すクライアントが多いのも無理のない話だとは思います。

齊藤氏:上層部や営業部の指摘も、ごもっともだと思います。ただ、とがった企画の核には「くばら」の名前や「あごだし」というフレーズを脳裏に焼き付けていただくという、当初からの明確な狙いがありました。

 そのため企画の根本に立ち返り、「今回の施策は商品を売るためのPRではない。全国的な知名度の低い我々にとって、まずはブランドを認知していただくという、直近の課題を達成するための施策」「ブランドを認知していただくためには、ニュースになるほど突き抜けた面白さが必要」ということを、ロジカルに説明したんです。

毛利氏:辛さや苦行を全面に押し出した企画ですから、私たち制作側も、少なからずクレームへの不安は感じていました。けれど齊藤さんを始め、クライアントが求める到達地点が明確だったからこそ、形にすることができたと思います。

 ウェブの制作チームには「極力、ユーザービリティを低くして」と前代未聞の指示をしていたわけですが、実はクライアント側から「いっそのこと、スクロール画面を真っ白にしてみては?」と、ご提案をいただいたほどです(笑)。

Twitterでのユーザーの反応
Twitterでのユーザーの反応

――心地のいい操作性からこそ、数値が生まれるという概念が当たり前であるなか、プランナーとしてはこのようなクライアントに羨ましささえ感じてしまいますが、PVを始めとした実際の数値はいかがでしたか。

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