映画リングの貞子を彷彿とさせる“赤い人”に追われながら、深夜の学校で身体のパーツを探す「カラダ探し」、とんかつ屋の跡取り息子が、とある出来事をきっかけにDJを目指す「とんかつDJアゲ太郎」、ありがちな復讐モノかと思いきや、先が読めない展開で読者を惹きつける「ファイアパンチ」――。
「週刊少年ジャンプ」発の漫画アプリ「少年ジャンプ+」が、デジタルならではの表現やストーリーによって、独自の進化を遂げようとしている。デジタル事業の責任者である週刊少年ジャンプ副編集長の細野修平氏に、同アプリの手ごたえやデジタル時代ならではの作家の発掘・育成について聞いた。
少年ジャンプ+は、少年ジャンプ電子版の有料販売と、無料のオリジナル漫画の大きく2つによって構成される漫画アプリだ。2014年9月の公開から間もなく2年が経とうとしており、現在550万ダウンロードを突破。ウィークリーアクティブユーザーは140万人を超える。読者層の平均年齢は20歳前後で、男女比は男性が7割、女性が3割ほどだという。
少年ジャンプ本誌の発売日である毎週月曜日に配信される電子版は、同社の想定以上に購読者が多く、その数は現在も増え続けているという。また、4月に「HUNTER×HUNTER」が約1年8カ月ぶりに連載を再開したタイミングで読者が一気に増えるなど(残念ながら現在は再び休載)、電子版は一度雑誌の少年ジャンプを離れた読者が戻るきっかけも与えているようだ。
電子版は当初、単号300円という価格設定で、紙の雑誌よりも高額なことが物議を醸していた。現在は、電子版でも安定した収入が見込めること、またアップルが設定可能な金額を変更したことなどから、読者も納得する250円へと値下げしている。
オリジナル漫画については、デジタルならではの規制にとらわれないチャレンジングな作品が数多く出てきている。たとえば前述した「ファイアパンチ」。詳細についてはぜひ作品を読んでもらいたいが、グロテスクな表現や、一般の漫画では考えられない“超展開”など、「タブーを全部入れしている」(細野氏)作品だ。
実は、同作は雑誌「ジャンプSQ.(スクエア)」の新連載候補だったが、最終的には連載にいたらなかった。そこで、少年ジャンプ+に持ち込んだところ、ネット漫画を楽しむ層に受け、いまでは回を増すごとにファンを増やしている。細野氏も「集英社に入って16年くらい経つが、こんなにネットでバズった作品は、他社も含めて見たことがない」と驚く。
男性がほとんど死滅し、女性ばかりとなった世界で青年が生き残る近未来エロティックサスペンス「終末のハーレム」も、連載開始当初から注目を集めている作品だ。内容の過激さから、時間やデバイスによって段階的に“ボカし”が入るなど、見せ方が変わることが話題となっている。当然、読者としては「何としてもボカしが入る前に読みたい」と思うため、最新話の掲載と同時にアクセスする人も増える。
少年ジャンプ+では過去にも、「To LOVEる-とらぶる- ダークネス」で、これに近い見せ方をしていた。To LOVEるでは、画面上をタップするとキャラクターがぷるぷると揺れたりするコンテンツを提供していたが、“大人の事情”でわずか数日で配信を終了したことで話題となった。こうした見せ方の変化は、柔軟にコンテンツを修正したり、配信方法を変えたりできるデジタルならではの利点と言えるだろう。
「とんかつDJアゲ太郎」は、シュールなギャグ漫画の側面を持ちつつも、登場人物たちの情熱や友情に心を動かされる作品で、音楽に詳しくない人でもDJに興味を沸かせてくれる。2014年9月に連載が始まり、また2年も経っていないが、すでにアニメ化やグッズ化、アーティストとのコラボなど、幅広い展開を見せている。同作も、もともとはジャンプ本誌でギャグ漫画の読み切り作品を2本ほど書いていた作者が、少年ジャンプ+で連載を始めたところ人気に火が付いたという。
このように、紙の雑誌ではそこまでヒットに至らなかったが、デジタル漫画で成功する作品が増えてきている。細野氏は「売りがはっきりしている作品は(デジタル漫画では)支持されやすい」と分析する。紙の漫画雑誌では毎週読むことを前提としているため、展開の早さはそこまで求められない。それに対しデジタル漫画は、ソーシャルメディアでシェアしたくなることなどが、面白い作品の基準の1つになっていることから、毎回“見せ場”があるような作品がヒットしやすい傾向にあるという。
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