少年ジャンプ本誌の連載陣は、紙とペンとインクという、昔ながらの方法で漫画を執筆している人が多い。それに対し、連載陣の平均年齢が20代半ばと若い少年ジャンプ+では、すでに約3分の2の作家が、何かしらのデジタルツールを導入して執筆しているのだという。
少年ジャンプ+で隔週連載中の「バイバイ人類」(原作:渡辺恒造さん)の作画を担当する荻原あさ美さん(28歳)も、デジタルペンを使って執筆している作家の1人だ。バイバイ人類は、ある日突然、世の中の人々が正体不明の「奴ら」に乗っ取られてしまう日常崩壊ホラー漫画。主人公の女の子・真山真矢が、冷静かつ大胆な方法で次々と訪れる危機を切り抜けるシーンが見どころとなっている。
荻原さんは小さいころから絵を描くことが得意で、小学生の時にはすでにPhotoshopを使ってPCでイラストを描いていたという。20歳頃からイラストレーターとして活動し、フリーペーパーやムック本、ソーシャルゲームのイラストなどを制作。そして、ウェブ漫画サイト「スーパーダッシュ&ゴー!」(現在はサービス終了)で、「B級シネマ少女組inグラインドハウス」という作品で漫画家デビューした。
デジタルペンでしか漫画を描いたことがないという荻原さん。愛用しているのは、ワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD」だ。デジタルならではの利点は、絵のレイアウトやコマの配置を自由に動かせることや、ペンで描いた線の太さを好きなだけ変えられること。また、自作したテクスチャなどを使うことで、通常のスクリーントーンとは異なる表現が可能なところなどだという。
通常の紙の漫画では白い紙にペンを入れていく(黒で埋めていく)が、デジタルでは逆に黒い画面を白く削るといった描き方ができると萩原さんは話す。「ベタ塗りが多いシーンだと、先にベタを描いてからホワイトで絵を描くことができる。白と黒のバランスが取りやすいので、(夜など)ベタの多いシーンではイメージが掴みやすい」(萩原さん)。
もちろん、紙ならではの良さもあると感じている。たとえば、ソフトウェアはPCの操作や機能をどれだけ使いこなせるかという点で、人によってスキルにバラつきがでてしまうが、紙であればそういった差が生まれにくい。また、いくらデジタルペンの性能が上がっても、「インクならではの良い線を描くことが難しい」(萩原さん)ことが課題だという。
現在は、2人のアシスタントと3人体制で執筆している。萩原さんがPCで書いた原稿データは、ストレージサービスの「Dropbox」で共有され、アシスタントは手元のiPadで確認できる。それを一度紙にプリントアウトして、アシスタントが背景を書き込み、さらにPCに取り込んで萩原さんが仕上げるという。
最近は、遠隔地にいるアシスタントとデータを送り合って作業する作家も増えているが、萩原さんはあえて同じ職場で作業するスタイルを選んでいる。漫画家を志望しているアシスタントに、目の前で描き方や仕事の進め方を伝えるといったことも、“オフライン”ならではの価値だと考えているからだという。
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