ARMが注目されるようになったのは、その得意分野であったモバイル向けの製品が急速に普及していったからだ。元々ARMベースの半導体は、今で言う“ガラケー”、正しくはフィーチャーフォンと呼ばれるスマートフォン以前の携帯電話にも多数採用されるなど、モバイル向けに強い半導体だった。
その勢いがさらに加速したのが2007年に登場したAppleのiPhoneだ。AppleのiPhoneは、Appleが自社設計したAシリーズと呼ばれる半導体が採用されている。このAシリーズはARMが開発したCPUの命令セットがベースになっており、現在のiPhoneやiPadの現行製品にはその延長線上にあるA9が採用されている。
また、Googleのスマートフォン/タブレット向けOSのAndroidも、ARMのCPUに最適化されており、ほとんどのAndroidスマートフォンメーカーはARMベースの半導体を採用している。つまり、今読者が手にしているスマートフォンの中にはARMの技術が入っているのだ。
こうした背景からARMの設計に基づいた製品は増えつつづけており、2015年の段階でモバイル向けの半導体ではシェア85%、累計で148億個のARMベースのチップを出荷しているなど、特にここ数年加速度的に増え続けている。
ARMベースの製品が使われるのは、そうしたスマートフォンやタブレットといったスマートデバイスだけではない。現在最も注目されているのがIoT(Internet of Things、PCやスマートフォンではないインターネット接続機能を持っているデジタル機器のこと)の分野だ。
例えば、IoTの一つとしてスマートウォッチなどのウェアラブル機器が現在大きな注目を集めている。Apple WatchやAndroid Wearなどのスマートウォッチには、ARMベースの半導体が採用されている。また、Fitbitのようないわゆるアクティビティトラッカーと呼ばれるセンサ装置にも、スマートウォッチに入っているそれに比べて高性能ではないものの、低消費電力のARMベースの半導体が採用されている。
そしていま、最も注目を集めているのが、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転などで注目を集める自動車向けの半導体だ。例えば、自動運転を実現するには、カメラやレーダなどでとらえた物体を瞬時に解析してそれが歩行者なのか、他の車なのか、それとも木なのかを自動車が主体的に判断していく必要がある。このため、自動車にも高い演算性能を持った半導体が必要になると考えられている。
それ以外にも、メーターのデジタル化、カーナビゲーション、電気自動車であればバッテリ制御などにそれぞれ高性能な半導体が必要になると考えられている。今後数年から数十年にわたって、自動車向けの半導体は急成長を遂げると見られており、その多くがARMベースになると考えられているのだ。
モバイルの市場で85%以上という大きなシェアを抑えている上、IoTや自動車といった成長分野でシェアを伸ばし続けているARMは、今後も安定的に成長を続けていくと半導体業界では考えられている。つまり、これだけを見ても、ARMというのは誰にとっても買いたかった企業──、ソフトバンクが買ったのはそういう会社なのだ。
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