米国EvernoteのCEOであるクリス・オニール氏は、6月22日に来日し、メディア向けに今後の事業戦略などを説明した。その1週間後となる6月29日には、有償版の価格改定、無償版へのモバイルパスロック提供、マルチデバイス対応の有償化(2台目まで無償)と、次々にサービス内容のアップデートを発表した。
これまで、Googleでカナダ支社責任者、Google X事業責任者などを歴任してきたオニール氏は、Evernoteにどのような改革を生み出そうとし、今後の成長戦略を描いているのだろうか。6月22日の発表会直後に同氏にインタビューした。なおこのインタビューは、有償版の価格改定などが発表される前に実施したものだ。
今回の価格改定についてオニール氏は、公式ブログの中で「ユーザーのみなさんの要望に応える新機能も随時実装しながら、主要製品をよりパワフルに、直感的に使えるようにすることに引き続き投資していく。一方、それを実行するためにはたくさんの労力と時間、そしてお金が必要になる。そこで、Evernoteに大きな価値を見出してくださる方には、私たちが必要な投資を行えるよう、ぜひ力を貸していただきたい」と呼び掛けている。
この1年という短い期間で、Evernoteはこれまで培ってきた実績をベースとしながら、企業の信念・価値観、ビジョン、ミッションを明確に共有し、組織強化を進めることができたと考えています。企業にとって、すべてはチームビルディングから始まります。これまでのチームに新たな人材を融合させ、加えて新たな機能に対応できる人材をも加えることで、ミッションに向かって走れる組織を作り出すことができました。これが1番大きな成果だと考えています。
また製品戦略については、製品が持つ「同期」「ノート編集」「検索」という3つの強みにフォーカスを当てて、ユーザー体験を向上させるために、目に触れない部分も含めて明確な改善をしてきました。
たとえば同期機能では、同期時の接続エラーを従来の90%以上削減できましたし、ノート編集機能では、製品のソースコードそのものを全面的に書き直してスピードの向上やエラーの削減を実現し、外部のツールと連携しやすくしました。ノート検索については、プラットフォーム(OS)ごとに異なっていたアルゴリズムを共通化し、AIや機械学習を導入することで快適な検索機能を実装しました。
加えて、Evernoteという企業が自立して今後の成長を歩めるように、財務の健全性を確保して強固な経営体制を構築しました。売上の向上とコスト管理の最適化を実現することで、キャッシュフローについてはこの1年の間に単月黒字化も実現しています。
まとめると、この1年で、組織の強化と「なぜEvernoteが存在しているのか」という価値観の共有、製品戦略の推進、今後の追加調達を必要としない責任ある財務体制の構築、そして長年培ってきたブランドへの投資を進めてきたということです。
これはEvernoteに限らず、どの企業にとっても必要な時期なのではないかと考えています。注力すべきポイントを散漫にさせるものはできるだけ排除して、Evernoteの存在意義、Evernoteの原点であるミッションに立ち返って、将来の組織や製品の在り方を考えることが重要です。
加えて、Evernoteの原点である「全てを記憶する」という製品価値は(製品のアイデンティティとして)必要条件ですが、それだけでは十分ではありません。いまEvernoteは、すべてのユーザーの中にあるアイデアが持つ潜在性、可能性を解き放つことが重要だと考えています。
ナリッジワークはチームワークですが、チームを形成するのは個人の能力。Evernoteはユーザー個人が持つ“アイデアを考える能力”を引き出していきたいと思っています。そのために、Evernoteは中核にあるミッションを追求しながら、その上でAIや機械学習といった新たな技術を導入することで、ユーザーがアイデアを思考する際の支援やユーザー体験のパーソナライズを推進していきたいと考えています。
もちろん、これは簡単な判断ではなく方程式などは存在しません。しかし、製品を進化させるためには経営資源を集中しなければなりません。そこで私たちは(それぞれの製品・機能に)次の問いを投げかけました。
それは、「(ある機能・製品について)どれだけのユーザーとエンゲージしているか」「そのユーザーがどれだけの頻度で使っているのか」「ユーザーはその機能・製品にお金を払ってくれるのか」「その機能・製品が市場においてユニーク(差別化要因になるもの)なのか」「その機能・製品の一部を中核機能に組み込むことでサービスの肥大化を防げないか」という5つです。
この問いを踏まえて厳しいジャッジメントをしてきました。もちろん、その判断においてもユーザーフレンドリーを第一に考え、パートナー企業にも十分に配慮をしてきました。
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