パナソニックは5月25日、サービス、介護、医療などの分野で導入が進む、ロボット事業の取り組みついて技術セミナーを開催した。現状のロボット市場の背景から、インフラ点検ロボットの実機公開までを行った。
「今まで主に工場で使われていたが、これからは農業やサービス業など、新しい産業分野にロボティクスが使われていく」――パナソニックの生産技術本部ロボティクス推進室室長の本間義康氏は、ロボット分野の今後をこう話す。
この背景には、超高齢化社会と言われる日本の人口構造がある。高齢者率が増加する一方で、"ものづくり”を担う生産人口は減少をたどる。この生産人口を補うために期待されているのがロボットだ。
経済産業省が発表した「2012年ロボット産業の市場動向」によると、製造業、建設業など第二次産業に携わる、ものづくり関連ロボットの国内市場は2018年で約1000億円、2024年には1500億円を超えると見込まれている。
しかしそれ以上に大きな伸びが予測されるのが、第一次産業の農業関連ロボット市場と第三次産業のサービス、物流関連ロボット国内市場。2018年に比べ2014年には、農業関連では5倍、サービス、物流関連では7倍の市場を形成するという。
パナソニックでは「レーザー溶接システム」など、ものづくり分野で活用されているロボットはもちろん、「サービス」「介護・医療」「農業」「インフラ、災害対応/建設」まで、幅広い分野で使用できるロボットを開発、商品化している。
「サービス分野では自動でものを運べる『HOSPI』、介護・医療ではベッドから車いすへの移動が難しい方に向け、アシストする『リショーネ』などを商品化している」と本間氏は現状を説明する。ロボット掃除機「ルーロ」もすでに商品化されたロボット商品の1つだ。
ロボットの要素技術は足(移動技術)、脳(人工知能)、目(計測認識)、手(マニピュレーション)の4つ。「これらのセンシング技術を組み合わせることで、小さなものまでしっかりと認識し、役割を果たすことができる。また人とぶつかりそうになったときの"避け方”もポイントで、パッと素早く避けてしまうことで、人に対して恐怖感を与えてしまうことがある。これらも要素技術の組み合わせで、恐怖感を与えずよけることを実現した」(本間氏)とのことだ。
今後の事例として紹介された収穫ロボットは、ものに対する認識とマニピュレーション技術を活用したものだ。既存の配管上を自律的に移動することができ、距離画像センサとカメラによる3次元認識で、熟したトマトのみを特定。収穫用マニピュレーションにより、果実にキズをつけずに収穫できるという。
収穫ロボットは、高齢化による労働力不足を解消し、収穫ミスを低減。収穫率のアップにもつながるという。
一方、会場内に実機を持ち込んで説明したのが、ダムの点検などができる「ダム水中点検ロボットシステム」だ。国内にあるダムのうち、建設後50年以上が経過する割合は2012年時点で59%。2022年には70%、2032年には80%にのぼるという。
しかしダムの点検は、水中の未確認部分が多く、広範囲の目視は困難なため、全体を把握する「俯瞰マップ」が作れないなどの課題が多いとのこと。現在はダイバーによる潜水で点検作業を実施しているが、窒素酔いや減圧症など、危険を伴うことも多い。
今回発表されたダム水中点検ロボットシステムは、カメラや照明、センサなどを備え、水中での点検をアシストできるというもの。ロボットシステムのみを水中に沈め、ボートの上のモニタから内部を確認できる。
ビデオカメラや監視カメラで培った画像鮮明化技術や、照明器具による均一照射照明、ディスプレイなど表面のキズを抽出できる技術は、壁面の損傷自動抽出などに役立てられている。
「ロボットシステムの技術は、すべてをイチからつくっているのではなく、パナソニックがすでに持っている技術を活用しながらつくっている総合体」とパナソニックAVCネットワークス社事業開発センター先行開発部部長の九郎丸俊一氏は、こう表現した。
ダム水中点検ロボットシステムが導入されれば、撮影、取得した情報を統合管理し、分析作業まで支援できるシステムとして提供できるとのこと。
すでに導入を検討している事業所もあり、導入が進めば点検にかかる時間の短縮やコストダウンも見込めるとのこと。ダム以外にも池など、水中の設備に関して応用できるとのことだ。
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