空飛ぶスイートルームとも言われるプライベートジェット。海外の俳優やアーティストがさっそうと空港に降り立ち、報道陣に囲まれる――。そういった風景を思い起こす人も多いのではないだろうか。日本では“一部のお金持ちだけが利用できる贅沢品”と思われがちだが、欧米ではビジネスにおける移動手段として、富裕層だけでなく一般層にも広く認知されている。
かつてはセレブリティや大富豪が利用するケースが多かったが、プライベートジェットというニッチ(隙間)市場にビジネスチャンスを見出し、一般の人も利用しやすい形でサービスを提供する企業がここ数年で増えてきている。今回は、これまでにない予約システムで、プライベートジェットの旅を安価に実現している欧州発のサービスを紹介しよう。
ロシア出身のSergey Petrossov(セルゲイ・ペトロソフ)氏が2012年に立ち上げた「JetSmarter(ジェットスマーター)」は、プライベートジェットをスマートフォンアプリで簡単に予約できる“定額制サービス”を提供している。iOSおよびAndroid対応アプリをリリースしており、すべての手配をアプリ内のみで完結できる。プライベートジェット版の「Uber(ウーバー)」と考えると分かりやすいだろう。
Uberが世界中でサービスを提供し始めたため、見知らぬ土地に行っても簡単にタクシーをピックアップできる時代になった。これと同様に、世界中のどこにいても、プライベートジェットを簡単かつリーズナブルにグローバルな移動手段として利用できるサービスがJetSmarterだ。
創業者のセルベイ・ペトロソフ氏は、他に2つのIT企業を立ち上げている27歳の若き経営者。2009年に自身がプライベートジェットをチャーターする際、1件のフライトを予約するために、たくさんの書類に記入してFAXで送らなければならなかったことに煩わしさを感じ、このサービスを思いついた。利用されていないプライベートジェットは、空港で待機していることもあれば、特定の場所で顧客を乗せるために乗客なしで飛んでいることもある。
そうした空いている座席やフライトを、少なくともファーストクラスの料金と同程度の価格で提供することで画期的なサービスになると考えたのだ。Uberは従量制だが、JetSmarterは定額制サービスで、会員になると月額9000ドル(約111万円)でプライベートジェットが乗り放題となる。
所有にともなう手続きにかかる手間・時間が不要となり、メンテナンスなどの費用も回避できるため、プライベートジェットの使用頻度が高い人ほど安いと感じるはずだ。通常の航空会社が飛ばない空港へ行くことができるという点も大きなメリットで、多くの資産をもつ多忙な顧客にとっては、より早く快適に移動できる手段となる。
JetSmarterの特徴は、1台もジェット機を保有していないという点にある。現在、同社のシステムは商業目的に登録されている3100機のジェット機と連携しており、事前にジェット座席を購入する仕組みをとっている。アプリのダウンロード数はおよそ35万にのぼり、2015年の乗客数は約3万5000人。会員数は前四半期と比べて135%も増加している。
日本では企業の本社が大都市に集中しているほか、公共交通機関が充実しているためあまり必要性を感じないが、欧米では、訪問先の都市まで飛ぶ飛行機が1日に2便程度しかないこともある。忙しい経営者や政治家が、時間短縮のために利用するケースが多いという。
ペトロソフ氏は、顧客が増えれば、空(から)の状態で飛ぶ航空機や座席の数が減るので、コストは下がり続けると見込んでいる。2016年4月からは、ロンドン・パリ間、パリ・ジェノバ間などの欧州ルートのシャトル便も提供しており、2017年はじめにはモスクワでもサービスを開始する計画だという。サウジアラビア王族や著名ラッパーのショーン・カーターも出資者として名を連ねており、中東、アジア、欧州で業務を拡大していく方針だ。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス