日本航空(JAL)は4月18日、Microsoftが開発したホログラフィックコンピュータ「Microsoft HoloLens」を用いた業務活用のプロトタイプを開発したと発表した。
JALでは、HoloLensを副操縦士昇格訓練のための補助的なトレーニングツールと、整備士訓練用ツールとして採用する予定だ。
HoloLensは、携帯電話やPCなどの外部機器との接続は不要で、単体で利用できるメガネ型のホログラフィックコンピュータだ。重さは579g。開発者向けに米国とロンドンで出荷を開始しており、価格は3000ドル。Oculus Riftなど既存のVRとの違いは、没入感がなく現実の世界と重ね合わせられる“ミックスドリアリティ”にあると説明する。
JAL HoloLensプロジェクトリーダーの速水孝治氏は「既存のVRは没入型になるので、手を動かしても自分の手が見えない。自分の手でスイッチを押せるHoloLensが最も適している」と語った。
発表会では、HoloLensを使ったトレーニングツールのデモを披露した。操縦士向けの訓練では、操作で迷っていると画面や音声でアシストする場面も見られた。フライトシミュレーターは数が限られるため、初期段階では通常、コックピット写真パネルに向かって操作をイメージするアナログなトレーニングを行うという。また、整備士の訓練は、航空機が運航していないスケジュールを活用するなど、訓練時間が限られており、エンジン部分を見るには大がかりな手順が必要になり人手がかかる。それらの問題を解決するのがHoloLensだ。
JALでは、HoloLensの導入によって、所定の訓練時間を短くすることは想定していないという。得た“知的メモリ”を手を動かすことで“運動メモリ”に変え、習熟度を深めるのに役立てることで、運行の品質を高められるとしている。なお、下記のデモは、HoloLensの映像をディスプレイに出力している関係で、ディスプレイの表示は体験者よりも数秒遅れている。また、ディスプレイには表示されていないが、実際には操縦している自分の手も見えるようになっている。
JALは、HoloLensの活用に関してアジア初でありエアライン企業でも初となるビジネスパートナー企業となる。「MicrosoftがJALを選んだというよりは、われわれがお願いして作らせてもらったもの。日本マイクロソフトの樋口会長をはじめとする方々の計らいにより、JALがHoloLensを通じてしたいことをプレゼンしてもらった」(速水氏)と経緯を明かした。
発表に合わせ、Microsoft ゼネラルマネージャー Microsoft HoloLens担当のスコットエリクソン氏が来日。「JALは、さまざまな分野でイノベーションを遂行してきた。どのようなシナリオが可能なのかしばらく検討していたが、興味深いシナリオになった」と語った。
HoloLensについては、「いわゆるフルPCになっている。ラップトップPCを頭に載せているイメージに近い。アプリケーションはWindows 10に対応。Windows 10用のアプリケーションを作成すれば、HoloLensにそのまま採用できる。ホログラフィックのための特殊な作業が必要になることもあるが、2Dではそのまま使える」と説明した。
本来、発表会には日本航空 代表取締役社長の植木義晴氏と日本マイクロソフト 代表執行役 会長の樋口泰行氏が登壇する予定だったが、熊本地震の対応のため欠席。植木氏は、亡くなった方への哀悼とお見舞の言葉とともに、熊本空港が被害を受けて全便が欠航している状況について、グループが一丸となって復旧に取り組んでいるとコメントを寄せた。なお、JALはその後、4月19日から熊本空港に到着する一部の便で運航を再開することを発表している。
今回の取り組みについて、35年に渡るパイロット経験を持つ植木氏は、「初期の訓練はアナログが多く、快適なコックピットとは異なるもの。当時を振り返ると、紙に書いたスイッチの図を壁に貼り付けて声を出し練習していたが、紙は反応しないので、正しい手順でできているかを仲間に見てもらっていた。HoloLensによりリアルなコックピットを再現だけでなく、実際にスイッチを入れられるようにもなった。パイロットだった私だからこそ自信を持ってお伝えできる、本当にすさまじい進化」とコメントしている。
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