FinTech元年とも言われた2015年、日本でも盛り上がりを見せている。FinTechは本当のイノベーションにつながるのか、2020年の金融サービスはどうなるのか。2月18日に開催されたイベント「CNET Japan Live 2016」で行われたパネルディスカッション、「『FinTech』で何が変わる?~2020年 金融業界地図の変革~」をレポートする。
パネリストは、Zaim代表取締役の閑歳孝子氏、Finatext CEO & Co-Founderの林良太氏、みずほフィナンシャルグループ インキュベーションPT 参事役の西本聡氏の3名。モデレーターは電通国際情報サービスグローバルビジネス推進本部 グローバル事業開発部長の飯田哲夫氏が務めた。
まずはFinTechという言葉について簡単に解説しておこう。FinTechは「Financial technology」の略で、IT技術から生まれた新たな金融サービスの総称である。具体的にはクラウド会計ソフトや資産管理サービス、ソーシャルレンディングなどが挙げられる。FinTechが国内で盛り上がりを見せ始めた2015年は、金融×IT分野で活躍するスタートアップが数多く登場した年でもあった。
FinTechに注目しているのはスタートアップだけではない。国内有数のメガバンクみずほ銀行を有するみずほフィナンシャルグループも、早くからITと金融の可能性に着目。2015年はFreeeとの提携やAppleWatchとの連携などさまざまな取り組みを行っている。
同社インキュベーションPT参事役の西本氏は、金融機関としての立場から「金融機関のサービスがすべてスタートアップのサービスに置き換えられるのではという危機感の高まりがあった」ことを明かす。スタートアップだけでなくメガバンクも進出してきたこと、そして銀行法の改正で大きな変化が訪れたことなどがFinTechの盛り上がりの背景にあるという。
事実、FinTechの領域はどんどん増えている。しかし、一方で人材不足やスケール不足といった課題が山積しているのが現状でもある。こうしたFinTechの状況を冷静に見つめるのが、FinatextのCEOである林氏だ。前職はロンドンで金融の仕事をしていたという林氏は、当時から「銀行のできることがどんどん減っていくのを目の当たりにしていた」と述べ、「そこにチャンスがある」と起業のきっかけを語った。
FinTechという言葉が浸透するもっと前から、ITと金融の可能性を推し進めてきた人物もいる。2011年に個人で家計簿アプリ「Zaim」を開発・リリースし、後に資産管理アプリとして定番の1つに数えられるまでに育て上げたZaim代表取締役の閑歳孝子氏だ。
閑歳氏は最近のFinTechブームについて「銀行の人と話していても以前とは温度感が違うし、周囲の雰囲気が変わってきた」と感じているという。しかし、「FinTechが一般の人にどういう価値提供をできているのか。FinTechのおかげで生活がすごく変わったかというと、まだそうではないと思う。そういうところまで早く発展させなければいけない」と慎重だ。
実際、FinTechの恩恵を受けているユーザーには金融・ITリテラシーの高い人が多いという。「FinTechの普及は(初期の)スマートフォンの普及に似ている。どれだけ情報を出してもフィーチャーフォンから移る人が少なかったように」と閑歳氏は分析。自分たちのようなBtoCサービスがもっと意識づけをして「こういう選択肢があったんだ」ということを説明していく必要があると見ている。
これに同意したのは林氏だ。かつて林氏も「絶対に流行ると思って作ったサービスなのに、誰も(使い方を)わからなかった」という苦い経験を味わったことがある。敗因はあまりにも専門的で難しかったこと。そこで開発したモバイル株アプリ「あすかぶ!」では専門的な雰囲気を排して、楽しく株について学べることを目指した。マネーリテラシーとITリテラシーを高めることで、FinTechのキャズム超えを狙う。
もっとも、FinTechもビジネスである以上は稼いでいく必要がある。そうすると、今後はFinTechを展開するスタートアップもある意味では競合する銀行の方を見るようになっていくのだろうか。あるいはベンチャーキャピタルが入ることで、EXITするために銀行からより資金をとれるモデルを目指すといった性急な話に向かわないだろうか。
現時点では「そういった懸念はない」と語るのはZaimの閑歳氏だ。現在力を入れているのは、自治体の給付金情報を調査してどれくらいの給付金がもらえるのかを算出してくれるサービス。単体でマネタイズするのは難しいというが、社会を変えるためには個人や家族からという信念でサービスを展開している。これは資本関係がシンプルなZaimだからこそできる取り組みともいえる。「FinTechと呼ばれている会社とは根本的に戦略が違う」と閑歳氏はZaimの独自性を強調する。
では銀行と資本関係を結んだスタートアップはどうなるのか。金融機関のコンプライアンスを適用すると、今までのような自由度が発揮できなくなると見るのは林氏。「メガバンクのコンプライアンスは厳しくて、『えっ』と思うところでストップすることもあれば、逆にここ大丈夫なんだってこともある。評価基準がよくわからない」と発言する。
これにみずほの西本氏は「一昔前だと、金融機関以外でもできるサービスは金融機関がやってはいけないという法律があった。景品表示法なども守らないといけない」とメガバンクならではの事情を説明。それらを踏まえた上でどこまでできるのかが各金融機関の腕の見せ所だと述べた。
このままFinTechが伸びていくと、2020年の金融サービスはどうなるのだろうか。
林氏は、そのころには「(ユーザーと)金融との接点が変わってくる」と見る。「よりモバイルデバイスが普及するのは間違いない。一つ言えるのは、銀行はなくならないが、今よりもっとインフラ的な立ち位置になり、ユーザーの目の前に立つのは金融機関以外の企業・サービスになっていくのではないか」と語った。
逆に劇的な変化はないと予測するのは閑歳氏だ。既に4年間Zaimを運営してきた閑歳氏は、サービス開始時を思い出しても「劇的に変わった感じはしない」と冷静にコメント。「スマホも頭打ちで、今からそんなに変わるわけではない。やっぱり銀行に行ってATMでお金を下ろしていると思う」と分析する。その一方で、あらゆる生活動線に金融が入り込んでいくとも予想する。ユーザーの状況に合わせて適切にアプローチできる環境が整うのではと期待を寄せる。
生活の動線に入り込んだ金融サービスが、ネットに進出していくだろうと予想するのはみずほの西本氏。みずほはLINEと提携し、LINEから残高照会ができるようになったが、今後はそうした金融とネットの融合が進むだろうと見ている。逆に店舗にはロボットアドバイザーなどが登場し、ますますネットとリアルの連携が加速していくだろう。
「FinTech」という言葉を得て、いよいよ本格的なスタートを切った金融サービスのIT化。4年後の未来がどうなっているのか。引き続き注目を集めそうだ。
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