日を追うごとに注目が高まる「FinTech」だが、ここにまた新たな産声をあげたばかりで大きな資金調達に成功したスタートアップ企業が加わった。それは2015年12月10日に起業したFolioで、DCMベンチャーズとDraper Nexusに対して第三者割当増資を実施し、総額3億円を調達したと3月15日に発表された。Folioは、FinTechの中でもロボアドバイザー(顧客のリスク許容度を踏まえたうえでの自動運用も含めた資産管理、運用サービス)の分野で、独自のアルゴリズムを活用し、金融資産への投資が誰でも簡単、効率的に実現できる次世代型証券プラットフォームを提供しようと、サービスの設計やシステム、ユーザーインターフェースなどの開発を進め、サービス提供に必要な金融免許の申請、取得をしたうえで、今秋頃のサービス開始を目指している。
まずは、どのようにFolioが起業するに至ったか、創業者で代表取締役社長である甲斐真一郎氏の経歴とその思いを伝えよう。甲斐氏は京都大学法学部卒で、在学中にJBCボクシングプロライセンスを取得し、プロボクサーとして4回戦までいった。そのような甲斐氏がなぜ最初に金融業界で働くことになったのか。甲斐氏は、2006年にゴールドマン・サックス証券に入社し、金利トレーディング部において日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事したあと、2011年にはバークレイズ証券同部署に転籍し、アルゴリズム、金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。
当時のことを甲斐氏は「もともと意識の低い大学生で、大学のときはずっとプロボクシングをやっていたのでほとんど大学には行かず、夜は学費を稼ぐためにバイトをする毎日でした。そして、新人王を獲るために1年間かかるトーナメントに出場するために1年間大学を休学して臨んだのですが、1回戦で負けてしまったのです。このまま1年間過ごすのはさすがに親不孝かと考えたので、その時点でボクシングは諦めました。こんな風でしたので、就職活動には困り、同級生に助けを求めたら、当時外資系のコンサルティングや投資銀行がはやっていた時期だったのでそうしたコミュニティに入れてもらい、そのまま面接を受けているとスルスルとトレーダーの内定を多くいただきました。2006年とか2007年とかの時期でブームも給与水準もここがピークだったと思いますが、実際にやってみると仕事はおもしろかったので、およそ10年間トレーダーの仕事をしてきました」と振り返った。
では、トレーダーがどうして起業したのか。甲斐氏によれば「自分で飲食店をやりたいといった夢は常に持っていましたし、焼き肉屋に投資したこともありました。こうした独立心は強かったのですが、金融業界は縮小均衡右肩下がりで、トレーダーはリスクをとってはいけないといったような風潮も出てきて閉塞感を強く感じていたのです。周りを見渡しても誰も夢を語る人はいませんでした。半面、“起業”は夢しかないじゃないですか。起業リスクも昔に比べれば格段に低くなっていますし。トレーディングの世界を続けるのと起業するのと、リスクとリターンを比べた場合に、起業するというほうにいま飛び移らないと、間違いなく乗り遅れるだろうとたまらなく危機感を覚えたのです。それで2015年1月ぐらいからいろんな企業やビジネスモデルを調べて、ロボアドバイザーを含めて“FinTech”の分野に行き着きました。そして、ビジネスモデルも固まったのでFinTechで起業することを決断して、会社を辞める決意をしたのです」と語った。
こうして起業に至るわけだが、「資産運用をバリアフリーに」というスローガンを掲げるFolioは何を求めるのか。この点に関しても甲斐氏は熱く語った。「『使いにくい、わかりにくい』で埋め尽くされている日本の金融というものをもっと簡単にしないと、将来的に自分の資産を自分で守れないだろうと考えています。当然、インフレになっている中で銀行の金利はつかず、年金は破綻同然だし、貯金しているだけではどうにもなりません。自分の資産は自分で守れる金融リテラシーを向上させていきたいのです。投資未経験者の中にも、自分の金融リテラシーを向上させたいと考えている人は必ずいるはずで、そういう方たちの力になるサービスを構築していきます。これまでヘッジファンドや、プライベートバンクなどでしか提供されることのなかった最先端の投資技術を集約し、最先端のアルゴリズムを駆使して、気軽に簡単にショッピング感覚で投資を楽しんでいただけるようにサービス、ユーザーインターフェースを作り込んでいるところです」と意気込んだ。
ただし、思いだけでは社会は変革できないし、収益も上げられない。核となる技術はどうするのか。「技術力は高いと自負している」と甲斐氏が語るように、Folioのメンバーを見るとたしかに、そうそうたる顔ぶれだ。Folioでの担当と経歴を紹介しよう。
まずは、ビジネス面を支える2人がいる。業務統括(Chief Operating Officer)を任されているのが梶原俊一氏。東京大学工学部 計数工学科出身でバークレイズ証券入社後、一貫してデリバティブ業務に携わり、ファンド及び仕組債のマーケティングに従事した。もう1人はマーケティングを担当する山口 和晃氏で、東京大学工学部在学中に起業したあと、フリークアウトに入社し、国内外の証券会社・資産運用会社を中心にコンサルティング業務に従事していた。
そして、技術を支えるメンバーたちだ。広野萌氏はUI/UXのデザインを担当。早稲田大学文化構想学部在学中から数多くのハッカソンで優勝しており、日本最大級のハッカソン「Open Hack Day」最優秀賞受賞を経て、ヤフーへ入社。主に新規事業や全社戦略の企画、アプリのUX推進に携わり、その間にアプリのUIや機能に関する特許を2件出願。「Mashup Awards 10」の優秀賞となった「INTEMPO」など、国内外のプロダクトコンテストで30以上の受賞歴を誇る。
次に、竹村光氏はスマートフォンアプリとフロンドエンドの開発を担当する。京都大学情報学研究科卒で、コンピュータサイエンスを専攻し、ウェブ系カンファレンスに自身の論文が3本採択された。卒業後、ヤフーにて情報検索・知識処理のR&Dに従事したほか、個人でも数多くのプロダクトを開発し、Mashup Awards や Open Hack Day などのプロダクトコンテストでの受賞歴がある。広野氏とはヤフーで同期だった。
また、廣瀬達也氏はマーケットサイエンスの分野を担当する。京都大学理学部数学科卒で、在学中はカオス理論に代表される力学系を学ぶ一方で、機械学習における学会でも「優秀論文賞」を受賞。その他、複数のハッカソンにおいても多くの受賞経験を誇る。
さらに、澤田泰治氏はインフラシステムの開発を担当する。京都大学情報学研究科卒で、在学中に産学連携の研究開発メンバーとして次世代ネットワーク研究開発に従事する。卒業後はサイバーエージェントに入社。モバイルアプリエンジニアとして新規ゲーム開発に携わり、ルーキーアワードを獲得。また、同社の次世代リーダー育成制度にも取締役候補として最年少で選抜された経験を持つ。
こうしたメンバーがどのように参加したのか。甲斐氏は「メンバーを集められたのは奇跡。最初に私の友達の友達から紹介されて、現在UI/UXのデザインを担当する広野 萌と出会った。FinTechがバズり始めたころに興味があると言っていて、賛同してくれた。エンジニアは自分が尊敬できる人たちで集まる傾向があって、広野が参加してくれたことをきっかけに広がっていったので、エンジニアの採用にはまったく困らなかった」と言う。
最後に、今回の資金調達に応じた2社は次のようにFolioを見ている。DCMベンチャーズの日本代表である本多央輔氏は「Folio社はウェブプロダクトに対する確かな実績と強みを持つメンバーと証券業務に深い知見を持つ経営陣の非常にバランスのいいチームを構成してます。DCMとしても、米国でSoFi、Bill.com、SigFigなどのFinTech領域に投資した経験を踏まえ、Folioが提供するロボアドバイザーをはじめとしたサービスが生み出すユーザーへの価値及び資産運用促進へのインパクトの大きさを感じ投資を決断致しました。また、壮大なプロダクトのロードマップは世界的に見ても極めて創造的で社会的に意義深いものだとグローバルチームも捉えているので、Paypalで起きたように若いメンバーが巨大な業界を変革する姿が日本でも見られることを期待してます」とした。
一方、Draper Nexusの日本共同代表である倉林陽氏は「米国のみならず、日本においても数多くのベンチャー企業が台頭しているロボアドバイザーや次世代証券取引プラットフォーム市場において、Folioを創業した圧倒的な業界知見と実行力を持つ経営陣と、コンシューマーモバイル領域での実績豊富な開発チームが生み出すプロダクトが業界を席巻し、長らく必要性が叫ばれて久しかった日本人の『貯蓄から投資へ』の変革の流れを大きく後押しする存在になる事を期待してます」とした。
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