CNET Japan Live 2016

テクノロジーと人材を融合した「CGS」が、新たな価値を生み出す

 朝日インタラクティブは2月18日、東京オリンピックが開催される2020年を契機として、各産業や業界がテクノロジーによってどのようなパラダイムシフトを遂げるのかを考えるイベント「CNET Japan Live 2016 Target 2020~テクノロジーがもたらすパラダイムシフト~」を開催した。

 展示会場で実施されたミニセッションでは、「ITだけでは成し遂げられない『人のチカラ』を活用したCGSが創り出す未来」と題したパネルディスカッションが開催された。登壇したのは、クラウドソーシングサービス「シュフティ」を運営するうるる代表取締役社長の星和也氏、家計簿アプリ「Dr. Wallet」を運営するBearTail代表取締役の黒﨑賢一氏、ダイエットアプリ「カロナビ」を開発・運営するクオリア代表取締役の勝城嗣順氏。モデレータは、インキュベイトファンドの本間真彦氏が務めた。

左から、うるる代表取締役社長の星和也氏、BearTail代表取締役の黒﨑賢一氏、クオリア代表取締役の勝城嗣順氏
左から、うるる代表取締役社長の星和也氏、BearTail代表取締役の黒﨑賢一氏、クオリア代表取締役の勝城嗣順氏

 登壇した3社は、クラウドソーシングサービスに参加しているクラウドワーカーの労働力を活用して、さまざまなデータを収集・作成し、新たなサービスの価値を作り出す「CGS(Crowd Generated Service)」というサービス構築モデルを開発・運営。うるるは、地方自治体や官公庁が公示している入札情報や落札情報を、自社のクラウドソーシングに登録しているクラウドワーカー27万人を活用して収集・データベース化し、企業などに提供する「NJSS(入札情報速報サービス)」などを提供。

 BearTailは家計簿アプリのDr. Walletや、法人向け経費精算サービス「Dr.経費精算」に、ユーザーのレシートや領収書の情報を入力する作業でクラウドワーカーの労働力を活用している。クオリアはダイエットアプリのカロナビおいて、食事のカロリー計算やユーザー向け健康指導のために管理栄養士資格取得者のネットワークを形成している。

人の力をサービスに介在させることで、情報収集の質や精度を高める

 CGSはテクノロジーと人の力をハイブリッドさせて新たなサービスを構築するという考え方だが、それぞれのサービスはなぜクラウドワーカーを活用して構築しようと考えたのだろうか。

 うるるの星氏は、「全国の官公庁・地方自治体が公開している入札情報を企業担当者がすべて収集することはまず不可能。中にはウェブサイトをクローリングして情報を集めているサービスもあるが、情報の抜け漏れも多い。そこで、クラウドワーカーの手を使って集めれば、確実に網羅性の高いデータベースを構築できるのではないかと考えた」と説明。

うるる代表取締役社長の星和也氏
うるる代表取締役社長の星和也氏

 人力でデータベースを構築することで、システムでは拾いきれない情報を網羅できるほか、取集するクラウドワーカーが自分自身で判断して情報の整理や精度の向上を図ることで、クオリティの高いサービスを構築できる点をCGSの利点として挙げた。「NJSSを通じて、人の力を介在させることでこれまでにない価値を生み出せると実感できた」(星氏)。

 一方、クオリアの勝城氏は、「ダイエット指導は病院などオフラインの場で管理栄養士がすることが多く、オンライン化できないものかというニーズは高かった。オンラインで健康指導するサービスはすでにあったが、利用費用が月額数万円からと、普通の人が利用できるものではなかった。私たちはこうしたサービスを誰にでも使ってもらいたいという思いから低価格に設定し、全国で管理栄養士資格を持ちながら生かせていない人材を活用しようと考えた」と説明。

 また、専属にせずクラウドワーカー全体でユーザーをサポートする設計にすることで、スケーラビリティのあるサービスを生み出すことができたとした。

クオリア代表取締役の勝城嗣順氏
クオリア代表取締役の勝城嗣順氏

 BearTailの黒﨑氏は、「テクノロジーで解決できる課題はもはや解き終わった。レシートを自動でデータ化したり、ネットバンキングなどと連携したりといった機能は一般化してサービスの差別化が難しくなってきている。その中で、レシートのデータ化における精度には課題があり、ユーザーにスマートフォンで修正の手間を与えてしまっているが、テクノロジーのみで家計簿を”スマホ化”することは不可能なのではないかと感じている。それを実現するためには、テクノロジーと人力をマッシュアップしてサービス化できなければ、本当に価値のある家計簿サービスは作れないと考えた」と説明。

 うるるの星氏と同じく、フォーマットが統一されていなかったりする情報を使えるデータ化する際に、その質を高めるためにはテクノロジーだけでは限界があると指摘。それをカバーする存在として、クラウドワーカーの力が大きな価値を生み出すという認識を示した。

CGSは低コストで新規事業を立ち上げるための基盤になる

 では、テクノロジーとクラウドワーカーが力を合わせることで価値を生み出すCGSは、今後どのように発展していくのだろうか。

 まず星氏は、クラウドワーカーの多様性が新たなサービスを作ろうとする企業を支援するプラットフォームになっていくのではないかと提言した。「『シュフティ』には27万人のクラウドワーカーが登録しているが、全国から本当にさまざまな資格や得意分野を持った人たちが集まっている。特定の資格を持った人材を活用してサービスを作りたいといったニーズにもすぐに応えられる。企業が自前で人材を雇用するコスト、労働環境を整備するコストの負担は大きく、アイデアはいいが事業にならないケースも少なくない。雇用も労働環境の整備も不要でコストを抑制できるCGSは、新規事業を立ち上げるための基盤になっていくはずだ」と説明。

 また働く側も、スマートフォンでデータ入力などができることから、在宅時だけでなく移動中などの隙間時間にお金を稼げる点も、CGSのエコシステムが持つメリットとして挙げた。「CGSによって働き方や仕事の作り方は大きく変わってくる。スタートアップの新規事業だけでなく、既存の事業もCGSの発想でそのあり方が大きく変わっていくのではないか」(星氏)。

BearTail代表取締役の黒﨑賢一氏
BearTail代表取締役の黒﨑賢一氏

 続いて黒﨑氏は、家計簿サービスの領域について「家計簿サービスの次のステップとしては、ユーザーの購買履歴に応じて商品などをレコメンドするサービスなどが考えられる。それもシステムが自動的にレコメンドするのではなく、人の目でその提案内容が適切かどうかをチェックするという活用方法があるのではないか。サービスのクオリティを高めるためにCGSを活用するという選択肢が考えられる」とコメント。

 勝城氏は、専門的なスキルを持った人材のネットワークの活用について、「栄養士に限らず、専門的なスキルや資格は持っているのに、それを仕事に活かすことができていない人は多い。たとえば、医師免許は持っているのに何かしらの事情で医療に従事していない人材を活用して、遠隔での健康相談や遠隔診察といったサービスを構築すれば、医療が大きく変わるのではないか。今までは専門的な場所にいる専門的なスタッフからしか受けられなかったサービスが、自宅にいながらスマートフォンなどで受けられるような時代がやってくるのでは」とコメント。今後、専門的な知見を持った人材による専門性の高いCGSが登場してくることに期待を寄せた。

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