こんにちは。先日、2015年の出版統計が発表されました。それによると、書籍も雑誌も、2014年に引き続き、さらに売り上げが減少しました。
2月5日には、中堅出版取次の太洋社が業績不振を受けて自主廃業の検討に入ったとの報道もあり、「出版不況がさらに深刻化した」との論評が相次いでおります。
元データ(財団法人全国出版協会・出版科学研究所)にあたってみますと、特に、雑誌の数字が悪いですね。
書籍が、前年比▲1.7%と微減にとどまった(7419億円)のに対し、雑誌は、▲8.4%と、大きく落ち込みました(7801億円)。
2014年は、書籍が前年比▲4.0%、雑誌が▲5.0%でしたから、2015年は、書籍はやや持ち直した一方で、雑誌はさらに悪化した、ということがわかります。
上のグラフを見ても、緑(書籍)と比べて、赤(雑誌)の下落カーブが急ですね。
出版物の売り上げは、1996年にピークを迎え、その後は毎年減少しています。その意味では「出版不況」は、かれこれもう20年近く続いているわけです。
2015年には、『火花』の240万部を超えるヒットなど、いくつか明るいニュースがあったにもかかわらず、全体の売上額は、ダウントレンドを覆すところまでは行きませんでした。
「やっぱり、出版はもうダメなのだろうか?」
こんな疑問が出るのも無理はないのです。実は筆者も、ちょっと暗い気分になってしまいました。
ところが、よくよく数字を見てみると、そこには前向きの要素もあったんですね。
1つは、「電子出版の成長はやはり本物だった」ということ。
もう1つは、「雑誌は不況だが、書籍はむしろ拡大基調」ということ。
この2つです。今回はいつにもまして図版が多くなりますが、ご辛抱いただければ幸いです。
第一点は、電子出版についてです。紙の出版物の統計を毎月発表している出版科学研究所は、今回初めて、電子出版物の統計も発表しました。これは、なかなかのビッグニュースです。
これまで当コラムでも、何度も電子出版の統計についてお話ししてきました。
その際、引用させていただいたのは、インプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書」のデータです。
電子書籍の市場規模について、日本にはいくつかほかにも調査があります。しかし、こうした統計の中には、短期間で終わってしまったものや、集計対象やアンケート手法などに疑問が残るものもあります。その結果、電子出版の統計では、インプレス総研の調査が、これまでデファクト的地位を占めていました。
特に一般メディアが電子出版に触れる際、引用するのはほとんどインプレス総研のデータでした。
出版社によって、電子出版への見方や実績はさまざまです。自社の電子書籍の売り上げの少ない出版社からは、「実態より数字が多めに出ているのではないか」などという声もありました。しかし、これまでは信頼できる調査がほかに少なかったために、検証できなかったのです。
2014年、出版科学研究所は電子出版の調査を開始することを表明しましたが、その報を聞いて筆者は、「これまで言われていたより実は電子書籍の市場規模は小さい、ということになったらどうしよう」と危惧していました。
さて、フタを開けてみると……確かにインプレス総研の数値より、2割弱ほど少ないのですが、拡大基調にあることは確認できました。
インプレス総研と出版科学研究所の数字の差は、伝統的な出版社「以外」によるビジネスを、どこまで「電子書籍」に入れるかというスタンスの差だと考えられます。
インプレス総研の調査では、電子出版専業の出版社や、電子書籍関連の各種ウェブサービスなどを含め、比較的幅広く集計しているのに対し、出版科学研究所は、伝統的な出版社による電子書籍コンテンツを基本に集計しているので、両者の「差」は、こうした考え方の違いによるものだと思います。
ともあれ、市場が拡大していることは両者とも一致しており、「実は伸び悩んでいるのでは?」という懸念は薄まったといえます。やれやれ、でした。
なお、インプレス総研は「文字モノ」(文学、評論など)と「コミックス」とをまとめて「電子書籍」と定義しているのに対して、出版科学研究所は、「文字モノ」(のみ)を「電子書籍」に、「コミックス」を「電子コミック」に分類して、それぞれについて集計をしています。
よく言われるように、現在、インプレス総研が定義しているような、広い意味の「電子書籍」の売り上げの多くの部分は、「コミックス」によるものです。両者の内訳を調べてみたところ、下記のように、ほぼ同じでした(インプレス総研は2014年度、出版科学研究所は2014年の実績)。
この点については、以前もこのコラムで取り上げたことがありますね。もちろん、これはこれでいいのですが、今後は「文字モノ」の電子書籍の拡販が課題であることも間違いありません。
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