実は、その「コミックス」。これをどう見るかで、「出版不況」と呼ばれる現象に対する見方が、180度とはいかないまでも、90度くらい変わってしまうんですよね。
以前にもこのコラムで少し書かせていただいたことがあるのですが、毎年、二千数百億円の売り上げがある「コミックス」のうち、9割は「雑誌」の売り上げに計上されているのです。
「えっ、それって『ジャンプ』とか『モーニング』とか、『コミック雑誌』の話じゃないの?」
こう聞かれることもあるのですが、違います。『進撃の巨人』とか『ちはやふる』とか、「コミックス(単行本)」と呼ばれている「本」のことです。
会社や家庭、街角で「昨日、『進撃の巨人』買ってきたよ」と聞いて「ああ、あの人は、雑誌を買ったのね」と思う人は稀でしょう。しかし、統計上はそうなっているのです。
なぜほとんどのコミックスは、雑誌扱いなのか。これは、出版界七不思議の一つです。書籍と雑誌で取引条件が違い、コミック出版社の多くが雑誌の取引条件を選んでいるから、というのが理由のようですが、わかりにくいですよね(このあたりの実情は、書店員さんによるものと思われるこちらのブログが詳しいです)。
書籍扱いか雑誌扱いかは、出版社によっても、レーベルによっても異なりますが、大手について大雑把にいうと、KADOKAWAは書籍扱い、他社は雑誌扱いにしていることが多いようです。
下記は出版科学研究所のまとめによる、2014年の内訳です。
さて、つまり、どういうことなのか?
二千数百億円のコミックスの9割は、「雑誌」にカウントされている。
これを、多くの読者が抱いているイメージに近いと思われる「書籍」カテゴリに移すと、冒頭の統計は、だいぶ変わってみえてくるんですね。
まず、雑誌ですが、コミックスが抜けた分、さらに落ち込みは急になります。
2015年の雑誌扱いコミックスの販売金額は、まだ出版科学研究所から発表されていないので、これは私の推定(過去10年間の減少率から)となります。また、1994年の前年比は、Excelの仕様上グラフが表示されてしまっていますが、データはありません(次の書籍についても同じです)。
それはともかく、雑誌扱いコミックスを抜いた場合、2015年の雑誌売上は、前年比▲11.1%と、大幅な落ち込みになってしまいます。
「コミックス以外」の雑誌がいかに不調か、ということが、このグラフからわかりますね。
逆に、書籍は、「コミックス」が加わったことで、減少幅が減るかとおもいきや、そうはいかないのが面白いところです。
こちらは雑誌とは逆に、コミックス以外の文字モノの書籍が堅調だったから、ということが理由として考えられます。
とはいえ、変化率に注目すると、雑誌と比べて、2004年に一瞬プラス成長(3.0%)が見られるなど、減少トレンド一辺倒ではないですね。大きな流れで見ると、下がっていることは確かですが、その動きは、雑誌と比べ、かなりなだらかであることがわかります。
(以上、2015年の「雑誌扱いコミックス」の金額が筆者の推定どおりだった場合の話で、2016年2月出版科学研究所から発表になる「雑誌扱いコミックス」の数字次第では、以上の考察は的外れになる可能性もあります。ただし、それ以前の趨勢については変わりないはずです。)
さて、ここまでは紙の書籍の話。
当コラムでは、以前から、「出版物は紙+電子のトータルで考えるべきだ」と主張してきました。
なので、上の(コミック修正済みの)「紙」の統計に、「電子」の統計(インプレス総研)を付け足してみましょう。
まずは、雑誌からです。
焼け石に水……。
紙の雑誌(コミックス抜き)の売上減が激しく、それと比べると電子雑誌の売り上げが小さすぎるので、両者を足しても、全体の下落トレンドを覆すには至りませんでした。
では、書籍はどうでしょうか?
焼け石に熱湯……。
黄色の部分(雑誌扱いコミックス)と灰色の部分(電子書籍)を足すと、書籍は2012年以降「右肩上がり」に伸びていることがわかります。
前述のように、2015年の「雑誌扱いコミックス」だけは筆者の推定ですが、ほかは、出版科学研究所とインプレス総研から発表された「実績」数値です。
2015年の総合書籍(青色+黄色+灰色)の売り上げは、1兆1001億円。
これは、史上最高だった1996年の1兆3090億円には及びませんが、2008年の1兆971億円と肩を並べる水準。1993年の1兆34億円を上回っています。
ここまではインプレス総研の電子書籍販売金額を使ってきましたが、出版科学研究所の数値を入れたらどうなるでしょうか?
インプレス総研と比べ、上昇幅は多少ゆるやかになりますが、こちらでもやはり「書籍」は伸びていることがわかります。
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