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電子書籍ビジネスの真相

出版不況は終わった? 最新データを見てわかること - (page 3)

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2016年02月10日 08時10分
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今後はどうなる?:2019年、書籍は2005年の水準を回復へ

 「これまで」はわかったとして、「これから」はどうなるのでしょうか?

 最初に雑誌ですが、残念ながらこちらは電子を加えても、趨勢は変わりません。

総合雑誌市場(紙+電子)実績+予想 ※クリックで拡大
総合雑誌市場(紙+電子)実績+予想 ※クリックで拡大

 出版科学研究所の雑誌(雑誌扱いコミックス除く)の売り上げが、過去10年と同じ比率で減っていったと仮定した場合の2019年までの予測値を出し、それに、インプレス総研の電子雑誌売上予測を足したものです。

 一見してわかるように、コミックスを欠いた「雑誌」では、たとえ電子雑誌を足し合わせたとしても、退勢は隠しようもない……というのが正直な印象です。

 一方、「書籍」はどうでしょうか?

紙書籍+雑誌扱いコミックス+電子書籍の販売金額推移(出版科学研究所/インプレス総研) ※クリックで拡大
紙書籍+雑誌扱いコミックス+電子書籍の販売金額推移(出版科学研究所/インプレス総研) ※クリックで拡大

 こちらでも、雑誌と同様に、2015年以降の「紙書籍」と「雑誌扱いコミックス」の売り上げは、過去10年の推移をもとにした推計です。

 2015年までの集計で確認したのと同じことが、2019年までの予想でも言えそうです。

 つまり書籍(紙の本+雑誌扱いコミックス+電子書籍)については、今後も「右肩上がり」に伸びていくと予想できることがわかります。

 この推定では、2019年の総合書籍の市場規模は、1兆1551億円。これは、1994年以降の書籍統計の中で歴代12位の数字。前項でも挙げた過去最高値(1996年の1兆3090億円)と比べると、▲12%ではありますが、2001~2005年あたりとほぼ同水準です。

 こうして見ると、1994年以降、そして書籍(雑誌扱いコミックス、電子書籍を含む)に関する限り、これまでこのコラムで何度か主張してきたように「出版不況は終わった」といえるのではないでしょうか。

いま何を考えればいいのか--「雑低書高」の時代に

 書籍に関してはある程度の活況が見られる一方で、雑誌については、壊滅的ともいえる売り上げの低下が止まらない。

 この条件下で、出版業界は、何を考えればいいのでしょうか?

 もう一度、冒頭に挙げたグラフを眺めてみます。

 俗に「雑高書低」と言われますが、1970代末から始まり、80年代のバブル、そして現在に至るまで、日本の出版界では、雑誌の売り上げが書籍の売り上げを上回る状態が長く続いてきました。

 現在の出版流通システム(取次、書店)は、こうした雑高書低を前提に組み立てられています。雑誌(定期刊行物)を毎週、毎月、大量に書店に送り込むトラック便の「隙間」に本を詰め込む、という発想にもとづいた利益構造なのです。

 取次や書店のビジネスモデルも、数百万部の雑誌と数千~数万部の書籍の組み合わせによる商売が基本でした。ところが今、40年以上続いた雑高書低の時代が終わり、「雑低書高」の時代に突入しつつあります。

 一方で、「雑誌不況」が言われながらも、それと相反するトレンド――雑誌の「増刷」――が相次いでいます。「雑誌もアイデア次第で復活できる」という解釈もありますが、私はこれも「雑低書高」の1つの表れだと見ています。

  • 「文藝春秋」の2015年9月号が、発売と同時に増刷(芥川賞受賞作「火花」を掲載)
  • 「新潮」2015年10月号が、4000部増刷(筒井康隆の新作「モナドの領域」を掲載)
  • 「婦人公論」2016年1月号が、1万部増刷(100周年記念号)

 これらは「自分の好きなある作家や作品、テーマが読みたい場合は雑誌を買う」という読者が確実にいる一方で、「この雑誌だから買う」という指名買い読者、本来の「雑誌読者」が減っていることを示している現象のように思えます。

 いま「本来の雑誌読者」という言い方をしましたが、雑誌とは本来、幅広い読者に向けて、その興味に合わせたコンテンツを「まとめて」送り出すメディアのはず。そうした雑誌の本義から言えば、「作家・作品・テーマ買い」の読者は、いわば「一見さん」で、雑誌本来のお客ではないとも言えるのですね。

 「雑誌読者の変化」に合わせて、通常号より増刊号、特別号に力をシフトさせている雑誌もあるようです。いわば、「雑誌の書籍化」です。

 そもそも、「書店で雑誌を定期的に買う」ということ自体が、少なくとも欧米圏から見ると奇異なビジネスモデルであった、ということも指摘されています。欧米圏では、雑誌は定期購読で自宅で読むものであり、「ブックストア」はその名のとおり、主に書籍を買うところ、というふうに住み分けされているからです。

 たとえば、TIMEをAmazon.comで買おうとすると、基本的に定期購読の仲介しかしていないんですよね。

「TIME」商品ページ(Amazon.com)
「TIME」商品ページ(Amazon.com)

 これと比べると、単価の安い雑誌を毎号売れるかどうかもわからないのに書店に送り込んでいる日本の雑誌ビジネスのやり方は、もともとリスキーであったように思えます。

 読者の興味関心のスポット化、狭隘(きょうあい)化と、流通上の高リスク性――雑誌危機の本質はこのあたりにありそうです。

 いずれも以前から言われてきたことで、筆者がいまここで斬新な解決策を提案することはできないのですが、さきほど触れた「雑誌の書籍化」の延長線上の施策として、「雑誌の電子書籍化」が、少しずつ目につくようになってきています。

「雑誌の電子書籍化」の例(amazon.co.jp)
「雑誌の電子書籍化」の例(amazon.co.jp)

 上記のような動きが大規模に広がっていくのかどうかも、現時点ではわかりません。ですが、旧来の雑誌が担っていた機能が急速にウェブに移行するとともに、従来の雑誌を担っていたプレイヤーやリソースが、徐々に「書籍」の方へ寄って行こうとしているのかもしれません。

 そして、それは「雑誌」や「新聞」の縮小が明確になる一方で、「書籍」だけは、ここまでに述べてきたように、ウェブ時代においても「拡大」する可能性を秘めているからでしょう。

 「出版」は「書籍化」することで復活する。これが筆者の仮説です。今後もこの連載で、この仮説を深めていきたいと思います。

林 智彦

朝日新聞社デジタル本部

1968年生まれ。1993年、朝日新聞社入社。
「週刊朝日」「論座」「朝日新書」編集部、書籍編集部などで記者・編集者として活動。この間、日本の出版社では初のウェブサイトの立ち上げや CD-ROMの製作などを経験する。

2009年からデジタル部門へ。2010年7月~2012年6月、電子書籍配信事業会社・ブックリスタ取締役。

現在は、ストリーミング型電子書籍「WEB新書」と、マイクロコンテンツ「朝日新聞デジタルSELECT」の編成・企画に携わる一方、日本電子出版協会(JEPA)、電子出版制作・流通協議会 (AEBS)などで講演活動を行う。

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