テレビ朝日のアナウンサー養成学校である「テレビ朝日アスク」と、KDDIのスタートアップ企業支援インキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」は1月26日、「プレゼン・パワーアップ講座」をKDDI ∞ Laboの第9期プログラム参加メンバー向けに開催した。
今回の講座は、2月22日に開催が予定されているプログラムの成果をプレゼンテーションするイベント「DemoDay」を控えた第9期採択チームに、プレゼンテーション能力をさらに磨いてほしいという思いから開催され、プロの喋り手であるテレビ局のアナウンサーが指導することになった。テレビ朝日は、KDDI ∞ Laboのパートナー企業連合のひとつで第7期から参加している。アスクの提供する企業向け研修プログラムを今回の講座向けにカスタマイズした。講師はテレビ朝日アスクの校長でもある寺崎貴司アナウンサーと、朝の情報番組「グッド!モーニング」の司会者であるテレビ朝日の松尾由美子アナウンサーが務めた。
講座は午前と午後の二部制で、午前の部では発声法など基礎的なトレーニングを実施。午後の部では実際に大人数を前にしたプレゼンテーションをし、講師によるアドバイスを受けた。本稿では午後の部の模様をレポートする。
プレゼン・パワーアップ講座に参加したのは、2月22日の「DemoDay」に登壇する岩谷瑛司氏、坂本蓮氏、大谷宜央氏、曽根岡侑也氏の4名。イベント本番を想定し、本番で使用する予定の資料を用いて5分間のプレゼンテーションした。
トップバッターは岩谷氏。約6分間のプレゼンテーションを終えた後は、講師陣と一緒にビデオで自らの話し方をチェックする。「華丸大吉さんに少し似ている。こういう話し方をしているんだと思いました」と苦笑い。午前の部で学んだ「ゆっくり話す」ことを心がけたというが、「うまくできていない」と反省していた。
そんな岩谷氏のプレゼンについて、プロはどう見るのか。
寺崎アナは「声の大きさはOK」としながらも「目線の持って行き方に課題がある」と指摘した。具体的には「スライドの内容に気を取られて、目線が泳いでいる」というのだ。視線が意味なく宙をさまよったり、左右を不安げに見回したりすると、プレゼン内容の説得力がなくなってしまう。「伝える」ことを意識して、そこにいる人たちに視線を投げかけることが大事なのだという。
そしてもう一点が「画面の使い方」だ。岩谷氏のスライドは画面の情報量が多く、今話していることがどの部分を指しているのかが不明確。TVのニュース番組ではアナウンサーの背後にCGでニュース項目を表示することが多いが、寺崎アナは必ずCGのメニューを指差しながら、今どこについて話しているのかをわかりやすくしているという。
また、プレゼン資料の構成自体にも課題が残る。
「一文は短く、簡潔にまとめること。専門用語もあまり使わず、身近なものに落としこむといいでしょう。TV番組でも4行以上のフリップは作らないのがセオリーです」(寺崎アナ)
同じく講師を務めた松尾アナは「内容を詰め込みすぎている」と指摘。「要素が多すぎると、どこが大切なのかわかりにくくなるので、強調する部分は最高でも3点までに絞り込んでいくべき」(松尾アナ)。
淡々とした話し方もプレゼンにおいてはマイナスポイント。声のトーンや間のとり方を意識的に変えて、重要なキーワードを強調していくと、プレゼンを見た人の記憶にも残りやすい。岩谷氏にはサービスの説明をする際に「~ですけれども」とつないでいく癖があり、「ひとつつひとつの言葉を短く切っていく方がいい」というアドバイスもあった。
続いては坂本氏のプレゼンテーション。そつなくプレゼンをこなした印象だが、講師陣からは「声をもっと出してほしい。表情も固く、親しみやすさがない」という指摘が入る。
「製品名をさらっと出すのはもったいない。もっと溜めてから言うといいでしょう。スポーツニュースでも『ランナー三塁で……打ったー!』のように、溜めを作ることで視聴者を惹きつけます。同じトーンにならないように気をつけましょう」(寺崎アナ)
坂本氏だけでなく、多くの人にいえることだが、どうしても緊張すると早口になりがち。また、出だしは意識してゆっくり話せたとしても、語尾に近づくにつれて早くなってしまうという。
「人は句点(。)が近づくと言葉が走ってしまいます。語尾を伸ばしたり、上がったりすると綺麗に聞こえません」(寺崎アナ)
これを防ぐためには「語尾を丁寧に」と、意識することが重要。「自分のしゃべっている音をもう一人の自分の耳で聞く」(松尾アナ)のも効果的だ。
3人目のプレゼンテーターは大谷氏。けん玉を首にかけて登場するユニークなパフォーマンスは講師陣の評価も高く、さらに出だしのしゃべり方も「声がすごく出ていて表情もよかった」と高評価を得た。
しかし、それも10秒ほどで失速、だんだん小さな声になってしまう。
「製品自体がしょぼく感じられてしまう。プレゼンの勢いで製品の印象も変わるので、最初の感じで貫き通して」(寺崎アナ)
もう一つ、大谷氏が試みたのが、会場に語りかけるような会話調のプレゼン。それ自体は講師陣の評価も高かったが、質問から答えまで間を空けずに進めてしまったのは「もったいなかった」という。適度に間を作り、本当に会話するような感覚で進めるといいだろう。
最後に曽根岡氏のプレゼンテーション。ビデオを見返した曽根岡氏は、「言葉が早過ぎるし、語尾もへにゃへにゃ。滑舌も悪い」と反省する。
実際、曽根岡氏のプレゼンはやや早口で、講師陣も「声はしっかり出ているので速いわりには聞き取りやすいが、やはり早口」とコメント。また、プレゼンの進め方も早すぎたようで、「理路整然としていてわかりやすいが、共感を得られたかというとそうではない」(松尾アナ)、「聞いている方が理解しようとしても、どんどん次にいってしまう」(寺崎アナ)
寺崎アナによると、プレゼンでの話し方は「緩急をつける」ことが重要で、そのためにはやはり「間を作る」ことがもっとも効果的だという。間を作れないほどしゃべり通して時間ギリギリなのであれば、それはプレゼンに内容を詰め込みすぎ。プロダクトのすべてをアピールするのではなく、どこをアピールしてどこを削ぎ落とすのか取捨選択をする必要があるのだ。
最後に今回の講座で講師陣から出たアドバイスをまとめておこう。
話し方ひとつでプレゼンテーションの印象はがらりと変わり、プロダクト自体の魅力をも左右されるため、普段からの意識が重要だ。
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