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教育ITの主眼は「理系人材の育成」:日本MSが文教に投資する理由

羽野三千世 (編集部)2015年11月20日 15時17分
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各種センサを搭載したロボット「教育版レゴ マインドストームEV3」

「ロボット×クラウドではじめての本格プログラミング ~レゴ マインドストームで地球を探査」のカリキュラム

 日本マイクロソフトは10月27日、玩具メーカーのデンマークLEGOと共同開発した小中高生向けプログラミング教育カリキュラム「ロボット×クラウドではじめての本格プログラミング ~レゴ マインドストームで地球を探査」の提供を開始した。

 子供向けのプログラミング環境に多いビジュアルプログラミングではなく、Visual Studioを使ってC#言語でコードを書き、各種センサを搭載したロボット「教育版レゴ マインドストームEV3」を操作する。さらに、センサで収集した外部データをMicrosoft Azure上のSQLデータベースに保存し、Excelをフロントにしてデータを可視化するというIoTのデータ分析の初歩を学ぶことができるカリキュラムになっている。

 テキストベースのプログラミングやExcelの操作が含まれるため、カリキュラム開発の実証に参加したのは中学生~大学生がメインだが、小学生向けのワークショップの開催実績もある。同社 デベロッパーエバンジェリズム統括本部 テクニカルエバンジェリズム本部 テクニカルエバンジェリストの渡辺弘之は、「サンプルソースコードも用意しているので、小学生でも十分参加できるカリキュラム」と紹介した。


日本マイクロソフト デベロッパーエバンジェリズム統括本部 テクニカルエバンジェリズム本部 テクニカルエバンジェリスト 渡辺弘之氏

 ところで、同カリキュラムで使用するレゴ マインドストームEV3はLEGOが販売するプログラミングロボットだが、OSにはC#言語で開発できるオープンソース「MonoBric」を搭載する。プログラミングとビルドに使用する開発ツールVisual Studioは、Community版などを使えば無償だ。収集するデータ容量も、渡辺氏によれば「授業で使うくらいであれば、Azureの無償体験版で事足りる」という。一見、Microsoftの儲けどころがないカリキュラムのように思える。

プログラミング教育の目的は「将来のSTEM人材育成」


日本マイクロソフト業務執行役員 パブリックセクター統括本部 文教本部長 小野田哲也氏

 日本マイクロソフト業務執行役員 パブリックセクター統括本部 文教本部長の小野田哲也氏は、小中高生向けに本格的なロボットプログラミングや、クラウドを使ったセンサデータのアナリティクスを学ぶコンテンツを提供する狙いは、「国内でSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)人材、いわゆる理系人材を増やすことにあります」と説明する。

 子供向けのプログラミング教育は、1人1台のPC環境がある先進的な学校を中心に教科授業や課外授業に導入されるケースが増えている。その目的として、プログラミングを通じた論理的思考力や問題解決力の育成、協同学習などが挙げられることが多く、プログラミングそのものの習得に授業時間を割かないようビジュアルプログラミング環境を使う。

 「もちろん論理的思考力の育成などもプログラミング教育の目的ですが、それよりも、STEM人材の不足が日本だけでなくグローバルで喫緊の課題。あらゆる産業でデータアナリティクスなどができる理系人材の需要が高まっており、社会が求める理系と文系の割合と、実際の割合とのギャップが大きくなってきています」(小野田氏)。

 同社が小中学校や高校における1人1台PC環境の普及に取り組み、プログラミング教育ができる環境や、テキストベースのプログラミング教育コンテンツを提供する大きな目的は、理系大学に進学する学生、将来のSTEM人材を増やすことにある。その取り組みが、ひいては社会全体のデータ流通量の拡大、アナリティクスや開発プラットフォームのニーズ拡大につながり、Microsoftのビジネス成長に寄与する。

2015年度は小学校教師の支援に注力

 小中学校での1人1台PC環境やSTEM教育を普及させるために、同社が今年度、国内文教市場で特に力を入れているのは教員の支援だ。Windowsデバイスや、Office 365 Educationなどの教育機関向けクラウドサービス、プログラミング教育ツールのMinecraftEduやレゴ マインドストームなどを提供するだけでなく、それらを使って授業を設計する方法を教員に指導している。


文教本部 パートナーアライアンスマネージャー滝田裕三氏(左)と小野田文教本部

 その取り組みの重点校として、小学校6校を「Microsoft Showcase School」に認定。日本マイクロソフトのサポートのもとMicrosoft製品を取り入れた授業を実践し、授業内容や指導のノウハウを他校の教員にも公開していく。Microsoft Showcase Schoolは、Microsoftが独自に教育IT先進校を認定して、ITを活用した授業を支援するグローバルのプログラムだ。2015年度の認定校として、日本の小学校が初めて選出された。

 Microsoft Showcase Schoolの認定校である東京都の日野市立平山小学校では、教師と生徒の間でリアルタイムのフィードバックや共同作業ができるようOneNoteを機能拡張した「OneNote Class Notebook」を授業や家庭学習の指導に活用している。

 また、姫路市立安室小学校では「Skype for Business」を使った授業、京都市の私立立命館小学校では資料作成支援サービス「Sway」を利用したプレゼンテーション指導を実践している。徳島県の東みよし町立足代小学校は、Minecraftを使った図工と、「Yammer!」で学習活用を記録することに取り組んでいる。

 Microsoft Showcase School認定校6校での取り組みは、Windowsクラスルーム協議会(日本マイクロソフトなどが参加する業界団体)が11月28日に都内で開催する教育関係者向けイベント「Education Day」で紹介される予定だ。

IT活用が学習障がいをもつ児童の教育に大きな効果

 最後に、日本マイクロソフトの教育に関する取り組みをもう1つ紹介したい。同社が、茨城県つくば市、NTT東日本、発達障がいをもつ子供向けの民間塾を運営するLITALICOと連携して行っている「合理的配慮へのIT活用」の実証プロジェクトだ。

 同実証プロジェクトでは、つくば市の小中一貫校「市立春日学園」の特別支援学級に所属するLD(書字困難、読字困難などの学習障がい)やADHD(注意欠陥多動性障がい)、自閉症スペクトラムをもつ児童生徒4人を対象に、ITによる学習支援を行っている。


PowerPointを使った漢字学習の例

 日本マイクロソフト 技術統括室 プリンシパルアドバイザーの大島友子氏は、「春日学園での実証は7月にスタートしたばかりだが、数カ月で大きな効果が出ている」と説明する。

 具体的には、書字障がいで漢字を書くことが苦手な児童に対してPowerPointの小学生向け機能「きっずリボン」を使った学習指導を実践した。例えば、「進」という漢字の書き方を覚えるために、児童と教員が一緒に漢字の成り立ちを「(1)人(イ)が、(2)4本の(ノ)棒につかまって、(3)しんにょうの船にのってすすむ」というようなストーリーを考え、PowerPointで(1)~(3)の部分を色分けしてアニメーションで表示する。「この方法で漢字が書きやすくなったと児童に好評だった」(大島氏)

 また、閉症スペクトラムで会話が苦手な児童は、タブレットの文字盤アプリを使うことで、普通学級の児童たちとコミュニケーションがとれるようになった。読字困難をもつ児童のために、漢字ドリルの内容をWordに転記し、Officeのアドオンとして提供されている読み上げ機能を使って音声にすることも実践している。


教員支援を担当するパブリックセクター統括本部 文教本部 ティーチャーエンゲージメントマネージャー 原田英典氏(左)、合理的配慮のIT活用を担当する技術統括室 プリンシパルアドバイザーの大島友子氏(右)

 同実証プロジェクトの目的は、2016年4月に施行される「障害者差別解消法」で障がい者への「合理的配慮」が法的義務化されるのを前に、学校における合理的配慮の具体的な手立てとしてIT活用の効果を検証することだ。2015年度中に検証結果を報告し、文部科学省とも連携して全国の教育現場にノウハウを共有していきたいとする。

 春日学園は、前述のMicrosoft Showcase School認定校でもあり、合理的配慮へのIT活用の詳細についても、「Education Day」のイベントで紹介される予定だ。

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