特許出願から読み解くソーシャルロボットの最前線--石黒教授の「テレノイド」やMIT発の「Jibo」

大谷 寛(弁理士)2015年11月19日 07時00分

 スマホの次の大きなトレンドの1つである「ロボット」。産業用ロボットがさまざまな用途で普及していく中、ヒト型ロボットにも注目が集まっています。

 「ロボット」が具体的に何を指すのかについてははっきりとした定義がないものの、ひとまず「人の代わりになんらかの作業をしてくれる機械」とします。工場において、人の代わりに自動制御で生産工程の一部を担ってくれる機械はまさにロボットであり、産業用ロボットです。

 産業用ロボットの場合、特定の作業を効率的にすることが大切なので、ヒトの外観をしていることは重要視されませんが、家庭において家事の一部を担ってくれる家庭用ロボットなど、ヒトとの関わりの中で役割を果たすロボットとなると話が変わります。ヒトとロボットがともに働き生活をしていくためには、ヒトが対話したくなる相手であることが求められてくるのです。そして、ヒトに似ているヒト型ロボットは自然に思い浮ぶ姿です。

 そんなヒト型ロボットの未来を感じさせるのが、Perfumeの2012年「Spring of Life」のミュージックビデオ。ヒューマノイドが歌って、踊って、恋をして泣いています。


ヒト型ロボットはどこまでヒトに近づく必要があるのか

 こうした未来像とは別に、Perfumeのミュージックビデオと同じ2012年に公開された特許出願(特開2012-40679)では別の視点が示されています。発明者は、「マツコロイド」の開発者である石黒浩教授。

 石黒教授の実験によると、ある人物に極めて似ているヒューマノイド(アンドロイド)を代役としておき、遠隔から本人が操作して動作・会話をさせると、あたかもその場所にその人物がいるかのような実在感を与えることが分かりました。しかし、こうした高精度のヒューマノイドを製作するには費用がかさみ、また操作も難しくなってしまう問題が残っていました。

 そこで実験を繰り返す中で、石黒教授は、本人に酷似していなくてもヒトを感じさせる最低限の外観と駆動機構を与えておけば、対話相手は性別、年齢などを自由に想像して補い、ロボット自体に本人を強く感じることができることを見出しました。


「テレノイド」

 駆動機構としては、たとえば、本人の口や目の状態をカメラで撮影してそれを遠隔操作でロボットに反映させることで、対話相手に強く本人を感じさせることができます。外観についても、口部分および目部分の大きさの比率を、人間の大人と同じ程度の比率にしつつ、頭部分の大きさに対する身長の比率を子どもと同程度にすることで、多くの人がこのロボットに本人を投影できるのです。ヒトが対話したくなるようにするためには、ヒトに近づけていけばよいという直観に捉われずに見出された発明といえます。

 このロボットは「テレノイド」という名前で2015年に設立された株式会社テレノイド計画から提供されています。

ソーシャルロボットの課題

 ヒトとのコミュニケーションに主眼をおいたロボットが「ソーシャルロボット」と呼ばれています。ヒトが対話したくなるように親近感を感じさせることを課題として捉えると、実在の人物のようにヒトに限りなく近づけていくことも1つの解ですし、テレノイドのようにヒトの認知メカニズムを解明して応用していくことも1つの解になります。

 また、ヒトを感じさせることにこだわらず、親近感を感じることさえできれば十分というのも解になります。たとえば、2015年に入って3600万ドルの資金調達をした米国MIT発のスタートアップ「Jibo」は、同名の家庭用ロボットを開発しており、ヒトとロボットとの感情的なつながりを重視していることが特許出願(国際出願WO2014/152015)でも述べられています。


 たとえば、Jiboの各種センサを用いてユーザーの表情、体温、視線、語気などを検出し、ユーザーの感情的な状態のログを取って学習していくことに加えて、悲しい気持ちと評価されるときには話しかけたり冗談を言ったりすることによって、感情的な状態によい変化をもたらすといったことが説明されています。機械学習は従来から特許出願されていますが、人工知能的な部分も感じられますね。

 ヒト型かどうかを問わず、ソーシャルロボットが家庭や社会に溶け込んでいくためには、ヒトとロボットとの感情的な距離をいかに縮めるかという課題と向き合う必要がありそうです。特許出願の対象である発明は課題に対する解決策(第2回)。課題は明らかになってきたので、今後ソーシャルロボット関連の特許出願が増えていくことは間違いないでしょう。

 ご質問がありましたらLINE@で。

大谷 寛(おおたに かん)

大野総合法律事務所

弁理士

2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2014年 2015年 主要業界誌二誌 Managing IP 及び Intellectual Asset Management により、特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。

専門は、電子デバイス・通信・ソフトウェア分野を中心とした特許紛争・国内外特許出願と、スタートアップ・ベンチャー企業のIP戦略実行支援。

Twitter @kan_otani

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