スタートアップが自社のみでできることには限界があり、他社との提携関係をいかに構築していくかはとても大切なテーマです。
たとえば大手企業と組むことができれば、大手の知名度、流通チャネル、技術、資金といったさまざまな経営資源を投入して、自社プロダクトの普及を加速することができますし、自社のみでは描けない大きなビジネスモデルを打ち出すことも可能になります。
一方の大手企業も、スタートアップと組むことで、日々変化していく市場のニーズに応えていくために必要な技術や着想を外部から取り入れることができるので、近年スタートアップとのアライアンスに積極的です。「オープンイノベーション」ですね。
ここで問題となるのが発明、ノウハウといった機密情報の「コンタミ」です。コンタミとはcontamination(汚染)の略で、自社の機密情報と他社の機密情報の区別がつかなくなってしまうことを指します。自社と他社の発明などが混ざってしまう状況です。
最近の例として、精密部品メーカーの島野製作所がアップルに対し、特許権侵害を理由としてMacBook AirおよびMacBook Proに使われている「Magsafe 2」という電源アダプタの販売停止と損害賠償を請求している事件があります。
島野製作所の計算によれば、アップルは月9億円程度の売り上げをMagsafe 2の日本における販売から得ており、少なくともその10%が特許権の使用料として支払われるべきであるとしています。
島野製作所が主張するのは、Magsafe 2のコネクタ部分の内部構造が、島野製作所の特許発明(下図)を無断で用いるものだという内容ですが、アップルは「自社の発明が盗まれた」と反撃しています。
アップルの主張によれば、両社は2005年の後半から「ポゴピン」と呼ばれるコネクタ部分の先端に用いられる接触端子を共同開発しており、アップルは島野製作所をMagsafeおよびMagsafe 2の単独サプライヤーとしてきました。島野製作所を単独サプライヤーとする傍ら、アップルは共同開発とは別に独自に別設計のポゴピンを開発するにいたり、島野製作所とは別のサプライヤーからMagsafe 2に必要なポゴピンの供給を受けるようになりました。そのことを知った島野製作所がこの新たなポゴピンに対して特許権侵害の主張をしてきたとのことです。
アップルとしては、この新たなポゴピンは別設計であり、島野製作所の特許権を侵害していないとの立場です。その上で、島野製作所が侵害を主張する特許権は、少なくともアップルの技術者と島野製作所の技術者が共同して発明したものであり、それを島野製作所は2011年11月、単独で特許出願したのであるから、そもそも権利が無効であると主張しています。
一部報道で、島野製作所としてはこの特許権が自社のものであることははっきりしているとのコメントが紹介されています。
この訴訟は現在も審理中で判決の目途は立っていません。結論にはまだ時間が掛かりそうですが、いずれにしてもアップルの主張を理解するためには、特許出願において「発明者」という概念がとても大切であることを知っていただく必要があります。
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