日米英が医療IT政策の現状と未来を語る--「Health 2.0 Asia - Japan」パネル - (page 3)

阿久津良和 羽野三千世 (編集部)2015年11月19日 07時30分

日米英で議論、ヘルステックがもたらす影響

 各スピーカーのプレゼンテーションが終わると、全員が壇上にソファーに腰掛けて西村氏が掲げた「(ヘルステックが)個人の日常的なライフスタイルに与える影響」、「(日米英で異なる)医療制度に与える影響」「医療費の財務面」「医療政策の透明性に与える影響」と4つのテーマについて議論が始まった。


左から西村周三氏、武田俊彦氏、赤羽根直樹氏、スティーヴン・J・アンダーソン氏、ポール・ライス氏

 口火を切ったアンダーソン氏は「個人医療に関して3つ問題に直面している。例えばゲノムプロジェクトでは膨大なデータを蓄積しているが、個々の場面でデータを使えるようなシステム能力などが必要だ。個人情報管理も難しい課題の1つだが、そこに医療情報が加わると難易度は3~4倍と膨れ上がる。最後は国境を越えて医療制度を調和させる、という点だ。各国の特性を踏まえつつ政府間の相互作用が重要。我々は国境を越えて議論しなければならない」と各テーマを横断しての見解を語った。

 ライス氏は「医療コストについて語りたい。医療ITは万能薬のように取り扱われ、コスト削減につながると思われがちだ。確かに(医療内容をスケジュール表にまとめることで医療レベルの向上を目指す)クリニカルパスや、(倫理的な看護実践の基本的姿勢を示した)ケアモデルも大事だが、本当のゴールを明確にしないと非効率なプロセスをデジタル化してしまうため、コスト増につながる」と危惧している。そのため「さまざまな分野から参加者を募って最終的目標を定めて、到達する方法をITで実現化するのが大事だ」と語った。

 日本政府の立場から武田氏は「以前から医療のIT化は言われながらも、実際の現場に浸透しなかった原因はコストにある。電子カルテ導入時も物理コスト以外に、使いこなすまでの学習コストが発生して便益を上回らなかった。

 医療ITは“夢”ばかり注目されるが、政府としては目前にあるコスト管理が正しいか注目せざるを得ない」と現状を説明した。その一方で武田氏は、マイナンバー導入が標準的な電子認証や通信インフラの実用化につながるため「今度こそかなりの効果を得られる」と日本の医療のIT化に自信を見せた。

 武田氏はコスト増という問題を前提に「すべての患者に対してゲノム情報の分析を行う必要があるのか。費用対効果を見据える必要がある」と安易な医療IT化に警鐘を鳴らしつつも、厚生労働省が以前から提唱している「予防の重視」にITが役立つことに触れた。さらに「ウェアラブルデバイスは日頃の健康管理に役立つ。今後は高齢者医療と介護に関する医療ITも考えてほしい」と加えた。

 赤羽根氏は、医療政策の透明性というテーマに対して、「厚生労働省では現在、ナショナルデータベースをオープンデータ化して研究者などに活用してもらう施策を進めている。そのような取り組みの中でオープンな議論が始まれば、医療政策の透明性は高まっていくはずだ」と希望を語った。その一方で個人情報保護が抱える問題として、「データベースに個人情報は含まれないが、希な病気や珍しい診療行為をデータ提供する際に、個人を特定できる可能性が生まれる」とリスクがあることも明示している。

 対応策として、「(米国の民間医療保険に加入できない低所得者などに対して用意した公的医療制度である)メディケイドがデータを公表する際に10件未満の症例は秘匿しているため、われわれも同じ仕組みを使おうと考えている」と赤羽根氏。さらに、特定地域に同じ症例が増えることで悪印象がついてしまうなど難しい側面は多い点については、「動向を踏まえつつ、ナショナルデータベース公開のルールをつくっていきたい」と語った。

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