Technicsが目指す正しい位置を示す部分に全力を注ぎました。私自身は2014年5月にTechnics担当に就きましたが、「世界最高クラスの完成度、品格、音、技術、デザインを持つオーディオを作る」と当時から言い切っていましたから(笑)。
それを、リファレンスシステムのR1シリーズとプレミアムシステムのC700シリーズとして形にするまでは本当に大変でした。最初の一歩はお手本がどこにもありませんから、ダメ出しを何百回も重ね、本当にこれでいいのかと自問自答を繰り返し、正しいTechnicsの「点」をみつけていきました。
ゼロから物を作り上げるのは面白いですし、Technicsのメンバーたちも好きな作業ですが、一度点を打ってしまったら後戻りはできません。最初の点をどこに定めるかを決めるまでは本当にしんどかったですね。
今回発表したCDステレオシステム「OTTAVA (オッターヴァ)SC-C500」(SC-C500)とヘッドホン「EAH-T700」は、音楽ファンをターゲットに開発しました。今回のモデルには、Technicsがこれからも持続可能なブランドとして生き残っていけることを託しています。
第1弾を発表した時に「ほしいけれど高い」「もう少し下のクラスが出てくれれば」という声をたくさんいただきました。そうしたお客さまに向けた商品を出したかったのと同時に、今まできちんとオーディオを聞いたことがない若い世代の人にも親しんでもらいたかったんです。
大阪のテクニクスリスニングルームは駅前にあるので、たまたま立ち寄ってくださったり、ふと入ってきてくださったりするお客さまも多いんです。その中にはスピーカできちんと音楽を聞いたことがないという若い世代のお客さまもいらっしゃいました。
普段オーディオに触れる機会が少ない方にもきちんと音を聞いていただくと「こんなにいい音で聞けるんだ」「すぐそこで歌っているみたい」とびっくりされるんですね。そうした反応を見た時に、きっかけがないと豊かなオーディオライフ、音楽ライフは広げていけないのだと実感しました。
今回はオーディオから離れてしまっている人にも振り向いてもらえて、かつ音の良さを空気で感じてもらえるようなシステムを目指しました。そのため従来と同じようなサイズのスピーカではだめで、もっと小さく、しかし高音質でなければなりません。
そのコンセプトを技術者に伝えると、もちろん最初は「できません」と返答がきて、一方で営業部から「どこで売るのですか」って問い合わせがくる。100%反対の中からスタートしました。
オーディオはある意味保守的な業界ですから、新しいものを作るにはものすごくエネルギーが必要なんですね。そこで50年というキーワードを出しました。
Technicsは2015年でブランド50周年を迎えました。では、次の50年を生き残っていくために必要な「点」は何か。それがSC-C500であると位置づけました。通常の企業は3年、5年といったスパンで中期経営計画を考えますが、Technicsに関してそれは違うと。50年先を見て点を打たないと次に取り組むべきことはわからないと、説得しました。
10月から東京・新宿のデパート伊勢丹でTechnics製品の展示、販売します。伊勢丹は高感度な方が集まる場所というイメージが強いですから、音を含めた豊かなライフスタイルを提案できるのではないかと期待しています。また、女性の目にも止まりやすい場所なので、今までにない層へお客さまを広げられると考えています。
実際、英国の高級デパート「ハロッズ」でもTechnicsの展示、販売をしていますが、通常のお客さまとはまったく違う層にアプローチできているんですね。国内でも同様の場所を探したときに、伊勢丹の方とうまくお話が進みました。今までTechnicsが向いたことのないお客さまに対しても情報発信ができる場であると考えています。
オーディオブランドとしてのポジションを築くため、技術をふんだんに盛り込み、音にもデザインにもこだわる、という基本路線は変わりません。
ただオーディオ市場が縮小していく中で、もう一度市場そのものを開拓する必要があります。それだけのパワーのあるモデルを投入していこうと考えたのが今回の新製品です。
1年目のハイファイブランドとしてのポジションを築くのはTechnics元々の基本戦略です。そこを外さず、しかし品格、品位、音作りの部分はこだわって、より簡単に楽しめるオーディオも提供していく。それがTechnicsの方針です。
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