Wearable Tech Expo 2015

ウェアラブルが抱える課題、将来像とは--世界的なデザインコンサルの試みと未来予測

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 9月7~8日に開催されたウェアラブル、IoT、VRをテーマとしたカンファレンス「Wearable Tech Expo in Tokyo 2015」の2日目に、世界的なデザインコンサルティング会社frogのテクノロジーディレクターであるマルクス・ベルター氏が登壇。ウェアラブルデバイスの現状と将来像について分析、予測した。


frogのマルクス・ベルター氏

障がい者のものは受け入れられ、健常者のものは受け入れがたい?

 frogは40年以上もの歴史をもつデザインコンサルティング会社であり、ベルター氏はその経験からこれから先のデザイン産業のトレンドを先読みできる、とする。かつては固定されていたコンピューターからインターネットにアクセスし、その後モバイルデバイスの登場で、どこにいてもインターネットに接続できるようになった、と振り返り、いま登場しているウェアラブルデバイスは、その次の“第3の波”と言われていると語る。

 ここで同氏は、1995年に撮影された1枚の写真を示し、MITの学生数人が、現在とさほど変わらないように見えるウェアラブルデバイスを身に付けていることを指摘した。つまりウェアラブルという“フォーマット”はかなり以前からあるものの、20年たってもウェアラブルの一般化がそこまで進んでいないのはどうしてなのか、と疑問を投げかける。


1995年に撮影された写真。MITの学生が身に付けているものは、最近のものとそう変わらないように見える

 その理由として同氏は、スマートフォンアプリのように、プラットフォームがまだオープンになっていないことを挙げた。個々のデバイスが、個々にプラットフォームや開発環境をオープンにしてはいても、スマートフォンほど統一化されたプラットフォームとしては広がっておらず、早急にエコシステムを作り上げなければならないのではないか、と見ている。

 また、ウェアラブルデバイスの形状やスタイリングについても、現在は時計やリストバンド型、メガネ型といったものが多いが、そういった体に身に付けるに当たって分かりやすいコンテキストにあるものだけでなく、他の全く異なるものも許容されるかどうか、といった視点にも同氏は考えを拡大させる。

 たとえばミュージシャンであるニール・ハービソン氏は色盲であり、全ての色がグレーに見えるという障害を抱えていた。しかし、独自にウェブカムを利用して色を音に変換する実験をし、色を認識することを可能にした。最終的に同氏はカメラデバイスを頭に物理的に埋め込む手術をし、その姿のままの写真をパスポートに使えるよう政府に認めさせた「地球上で初めて政府が認識したサイボーグ」となった。


色盲のニール・ハービソン氏は頭にウェブカムを埋め込み、色を音で認識できるようにした

 また、エイミー・マリンズ氏は、生まれつき足の一部が欠損している障がいをもっていた。普段生活するための義足もあるが、競技用の義足を装着することで、非常に速く走れることが分かり、現在はプロの競技者として活躍する「地球上で最速の女性」となっているという。

 この2人の例は、おそらく多くの人がさほど抵抗なく「ウェアラブルの発展型の1つ」として受け入れられるのではないだろうか。


エイミー・マリンズ氏は競技用義足で世界最速の女性となった

 同氏はさらにもう1つの例を挙げた。アーティストのティム・キャノン氏は、障がいをもってはいないものの、外部から血圧や血糖値を測れるようにするデバイスを皮膚の下に埋め込んだ。これは実験的な試みだったため、数カ月後には取り除いたそうだが、果たして健常者がデバイスを体の一部にしてしまうのは、ウェアラブルとして多くの人に許容されるものだろうか。このキャノン氏の例は「ウェアラブルというのは単に装着して歩くだけなのか、どの程度まで我々の体の一部にできるのか」という問題提起をしたとも言える。


ティム・キャノン氏は、皮膚の下に血圧などを測れるようにするデバイスを埋め込んだ

 ベルダー氏は、障がい者のものは受け入れられ、それ以外のものでは受け入れがたい、と感じる境界線はどこにあるのか、さまざまなウェアラブルのフォームファクタを作って実験してみたという。1つはオフィスの出入りをするのに必要な社員証を卵形の指輪型デバイスにし、指に付けるというもの。ただ、今や指輪型デバイスはいくつか登場してきていることもあり、さほど抵抗はないと考えられる。


社員証を指輪型のデバイスにした

 もう1つは、上海の大気汚染を防ぐためにマスクをしていると表情が分からないことから、その奥にある表情をLEDディスプレイで表現するというもの。マスクにセンサを設け、その上にLEDディスプレイを搭載している。同氏が示した写真では、煙だらけの部屋にマスクをした子供がおり、笑っていることが分かる。このようなデバイスの使い方は一般に受け入れられるかどうか、微妙なところかもしれない。


マスクの奥の表情が分かるセンサーとLEDを装着した姿

 このような応用研究、あるいは検証を、近頃はソフトウェア開発やハードウェア開発に縁のない、同氏のようなデザイナーが手軽にトライできるようになったと語る。つまり、ウェアラブルデバイスのイノベーションに向けた活動に積極的に取り組める時代であり、次世代のウェアラブルデバイスの姿を想像したり、トレンドを予測することが、ある程度容易になってきたと言える。

 現状のウェアラブルはすでに述べたように腕時計型やグラス型など、ファッション性が重要な要素となっている。同氏はこれに加え、「救命」という観点でのウェアラブルデバイスも提案する。心臓疾患をもつ人の胸に埋め込まれ、発作の前に現れる兆候を検知して数分前、あるいは数時間前に警告を出すというデバイスを例示した。

 さらに、ウェアラブルデバイスは1つで十分なのか、という疑問も呈する。Googleが進めるProject Araのようなモジュール分割型のスマートフォンのように、自分に合ったモジュールを組み合わせる形のウェアラブルデバイスもあってもいいのでは、と提案した。


心臓発作を検知するデバイス
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