「島野製作所 vs アップル」に学ぶ、特許を盗んだと言われないための注意点 - (page 2)

大谷 寛(弁理士)2015年09月11日 10時11分

「発明者」は誰?

 何かを解決するための新しい視点が「発明」です。その「発明」を国に申請する手続きが「特許出願」です。国の審査を受けて通過すると「特許権」が与えられます(第1回)。


 アップルの主張は、この特許出願が違法であるというものです。これはどういうことでしょうか。

 近年では企業が特許出願の主体になることが多いのですが、歴史的な経緯から、ある者が何か発明をすると、まずその人(発明者)に特許出願権(特許を受ける権利)が与えられます。この特許出願権を個別の契約によって、または勤務規則などによって、その人が勤める企業に与えることで、企業としては初めて適法に特許出願をすることができます。

 すべて自社開発であれば問題はあまり生じません。しかし、アップルと島野製作所の共同開発のように、提携関係があると簡単にコンタミの問題が発生します。完成品メーカーのアップルと部品メーカーの島野製作所が共同開発をするのですから、アップルが完成品に必要な仕様などを伝え、島野製作所は与えられた条件の下で具体的な部品を開発することになります。

 誰を「発明者」と呼ぶのかについては、いくつか判例が出ており、「発明における技術的思想の創作に現実に関与した者、すなわち当該発明の特徴的部分を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者」と言われています。ですので、アップルが先ほど引用した【図2】の内部構造や、その設計思想をある程度具体的に伝えていた場合には、開発を完成させた島野製作所側の技術者とともにアップル側の技術者も発明者となります。

 そして、複数の者が特許出願権の保有者であるときは、共同で特許出願をしなければならないことが特許法に定められていますので、単独での申請は違法となります。

 逆に、アップルがそこまで具体的な貢献をしていない場合には、島野製作所側の技術者が単独で発明したものであり、アップルの主張は誤りであるということになります。ただし、共同開発にあたりアップルから各種資料を受領してしまっていると、当然まったく無関係な資料は出てこないので、そこに記載された内容が発明とは関係がないと言い切ることは、それほど容易ではない可能性があります。実際には独自に発明していても、少なくとも部分的に盗まれたという主張がなされ、それが誤りであることの立証で苦戦してしまうのです。

 発明、ノウハウなどの自社の機密情報の流出は避けたいという点は、多くのスタートアップの方々が意識しているところですが、他社の機密情報の流入によるコンタミが大問題になり得るということを意識している方は多くありません。アライアンスを進める際には、知財の流出とあわせて意図せぬ流入についても気を付けてください。

 ご質問ありましたら Twitter(@kan_otani)で。

大谷 寛(おおたに かん)

大野総合法律事務所

弁理士

2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2014年 主要業界誌二誌 Managing IP 及び Intellectual Asset Management により、特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。

専門は、電子デバイス・通信・ソフトウェア分野を中心とした特許紛争・国内外特許出願と、スタートアップ・中小企業のIP戦略実行支援。

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