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スタートアップにもできる海外への特許出願--流れと費用を解説

大谷 寛(弁理士)2015年08月20日 07時30分
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 「海外展開するだけの体力はまだちょっとないので」「海外も視野に入れたいけれど……」

 特許出願をすると国際出願の話が1年以内に出てくることになるのですが、こんなやりとりが少なくありません。こうした反応の背景には、「国際特許」というものを大きなものと捉えすぎている部分があるようです。

 もちろん、グローバルに権利化を進めていくとなると、数百万円、場合によっては1000万円を超える費用がかかってきます。しかし、グローバルといっても、日本のスタートアップが自国で築いた競合に対する優位性が通用する国は数カ国に絞られてくることが多いでしょうから、重要な国についてのみ権利化を進めれば十分です。また国際特許出願は、「するか」「しないか」をすぐに判断する必要はありません。典型的には大きく3ステップに分けて整理でき、コストコントロールが可能です。

 「今はとても無理」と海外の可能性を排除してしまっているケースの大半は、国際特許出願の仕組みと費用感についての情報不足が原因だったりします。そこで、この記事ではスタートアップが海外で特許出願をしていく流れを費用感とともに説明します(台湾については政治的理由で例外的な扱いになりますので触れません)。

 まず、海外を早い段階から視野に入れている場合でも、日本の特許庁に通常の特許出願(「日本出願」)をします。次に、申請を完了した日から1年以内に、これも日本の特許庁に国際出願をします。そして、日本出願の申請完了日から2年半以内にどの国で権利化を進めるかを判断して、国際出願を各国の国内出願に移行させる手続(「国内移行」)をとります。以下、それぞれについて詳しくみていきます。


日本出願

 日本出願の費用は、数十万円です。数十万円の下の方か上の方かは、内容・分量によって変わります。

 日本出願をすると、工業所有権の保護に関するパリ条約(「パリ条約」)という世界の176カ国が加盟(8月10日現在)している条約により、パリ優先権と呼ばれる権利が生じます。パリ優先権は、簡単には日本出願から1年以内にパリ条約加盟国にした特許出願は、日本出願の申請完了日にしたものとして扱ってもらう権利です。

 ですので、まず日本出願をしてから1年間、猶予があります。ビジネスの成長具合をみて将来の海外展開の可能性を検討し、それに合わせて特許出願の要否を判断することができます。

国際出願

 国際出願の費用は、分野によりますが、50万円前後が一般的です。

 国際出願は、正確には特許協力条約(PCT)に基づく国際出願と呼ばれ、パリ条約の加盟国間で締結されたPCTという条約に基づくものです。簡単には、日本の特許庁に条約に従った出願書類を日本語で提出することによって、PCT加盟国のすべてに同時に特許出願をしたのと同じ効果が得られます。

 ですので、海外に特許出願するためには各国の言語への翻訳が欠かせませんが、ひとまず後回しにして、コストを大幅に抑えることができます。また、この段階ではどの国で権利化を進めるのかについても判断を後回しにして、より後の段階でビジネスの状況に合わせて国を選択できるようになっています。

 一例として、LINEの国際特許出願をみてみます。2013年10月8日に日本出願が申請されていて、約1年後の2014年9月22日にパリ優先権を主張して国際出願の手続がとられています。右側の「指定国」という欄にPCT加盟国が列挙されていて、これらの国々に特許出願をしたという扱いになります。


国内移行

 国内移行の費用は1カ国ごとに、これも分野によりますが、50~100万円程度が一般的と言えそうです。翻訳代、各国の代理人費用が掛かってくるため、高額になります。英語圏の複数の国に国内移行する際には翻訳代の分、費用が抑えられます。

 「国際特許」というものは実は存在しなくて、特許権は国ごとに特許出願をして、審査を経て国ごとに権利化されます。日本の特許権が、特許出願をして審査を受けて初めて成立するように(第2回)、各国の特許権についても、国内移行後に審査を受けていくことになります。ここでも国ごとに審査の費用が掛かってきます。

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