室伏氏は、自作の加速度センサで、ハンマー競技の科学的な解析を1998年に始めた。ハンマーのワイヤに掛かる張力を測定する技術も自作して、ワイヤの張力の変化とハンマーの加速を科学的に検証できるよう研究を重ねたという。
「スポーツは感覚だけでやっても、自分の思っていた方向と違う方向に向かってしまうことがある。限られた時間で、限られたエネルギーでどうやって成績を残すかを考えると、スポーツ科学のエビデンスを元にしてセンシング技術を開発する必要があった」と室伏氏。今後、選手寿命の長期化や身体に負担の少ない競技方法の考案など、スポーツ科学とテクノロジの融合よる可能性の拡大に期待を示した。
なお、このウェアラブルセンサによるモーションセンシング技術は、室伏氏だけでなくバドミントンのトップ選手らとも共同で研究が進められ、その後EPSONのゴルフスイング解析技術「M-Tracer」やミズノの野球スイング解析技術「SwingTracer」によって実用化されているのだという。「ハンマー投げに限らず、この技術をさまざまな競技の進歩に役立ててもらえれば」(同氏)。
室伏氏によると、こうした競技データの解析をトレーニングに役立てる流れは多くの競技のアスリート育成に取り入れられているという。「今はデータを継続的に取って解析することはどの競技でも重視されている。良い競技を1回実現するだけでなく、データ解析に基づく再現性を生み出して繰り返し理想通りの結果を生み出すためにだ。競技によって有効なデータは異なり、どのようなデータを計測、解析していくことが強化につながるかを研究することも重要だろう。ハンマー投げであれば、ハンマーが加速していく理想的なメカニズムを再現して練習材料にできれば、メダルに近づけるアスリートも増えていくのではないか」(同氏)。
また室伏氏は、パネルディスカッションに登壇したケイ・オプティコムのメガネ型ウェアラブル端末を活用した大阪マラソンの取り組みや、meleapが開発したテクノスポーツ「HADO」などの紹介を受け、スポーツがテクノロジと融合してどのように変わっていくべきかという質問に対して、次のように答えた。
「陸上競技をはじめ古くからあるスポーツはその歴史にこだわるだけでなく、イノベーションを起こしていかなければならない。競技をしている人だけでなく、見ている人も楽しめるスポーツになっていかなければ生き残ってはいけないのではないか。既存のスポーツにもテクノロジの知見をどんどん生かしていくべきだ」(同氏)。
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