LINEは7月29日、青少年のネットリテラシー啓発活動についての報告と新たな取り組みについて発表した。静岡大学との共同研究によって考案したネットリテラシー教育のための教材や、東京大学と共同で実施する、小学生から高校生を対象とした大規模なネット利用実態調査について紹介した。
発表会の冒頭、LINE代表取締役社長である出澤剛氏は、ネットいじめ、大人と未成年者の不適切な接触、不適切な画像の公開といったネットモラルの乱れなどをはじめとするコミュニケーショントラブルを根絶するための啓発活動推進チームを、2013年1月に社内に設置したと説明。
非公式なID交換掲示板サイトやアプリの閉鎖依頼、各携帯キャリアと連携した18歳未満のID検索禁止、さらに2014年は生徒や保護者、教育関係者や警察関係者など約4万8000人を対象に全国で300回以上実施した講演会やワークショップ、静岡大学と共同開発した学校向け教材の公開など、これまで実施してきた施策を紹介した。
出澤氏は、「身近な人とやりとりができるツールであるLINEは、災害時の連絡手段や家族間のコミュニケーションの円滑化など、さまざまなシーンで役に立ちコミュニケーションインフラとして確立している。その一方で、本来想定されていない不適切なコミュニケーションに利用されているのも事実。ネット事業者の社会的責任として真摯にこの課題に取り組み、ユーザー間のコミュニケーショントラブルをさらに削減したい」と意欲を見せた。
続いて、LINE政策企画室 室長でネットリテラシー啓発活動の責任者である江口清貴氏が登壇。同社のネットリテラシー啓発に対する基本的な考え方として、「リスクを受容可能な状態まで抑えた安全な環境を整えるには、人間(ユーザーの啓発)、社会(ルールの整備)、システム(技術的なリスク回避)という3つの側面をサービスに当てはめて対応を考える必要がある」と説明した。その中でも、啓発活動やワークショップを通じて、利用するユーザーがネット上の危険を見抜いて賢く使える知恵を身に付けることが重要であるとの認識を示した。
「いくらルールやシステムを完璧に整備しても、人が適切な使い方を考え、身につけなければ、システムやルールは機能しない。ネットの利用シーンは常に変化しており、ネットを使いこなしたり危険を未然に回避したりするための知識や技能を身につけるリテラシー教育は、年代ごとに繰り返しする必要がある」(江口氏)。
では、ネットいじめをはじめとするコミュニケーショントラブルの根本的な原因とは何なのか。江口氏は、講演会などで現地の生徒から話を聞く中で、“意志疎通のトラブル”が重大な要因のひとつであるという発見に至った。江口氏は、相手の印象を決定づける要因の大部分が耳や目から受ける情報であると定義した「メラビアンの法則」を挙げ、「テキストのコミュニケーションがもたらす誤解や意志の相違性がトラブルの要因になるのではないか」と説明した。
こうした前提に立って全国の生徒・保護者向けに開催されているワークショップでは、静岡大学と共同開発した教材を使って、この“意志疎通のトラブル”がどのようなメカニズムで発生するのかを実感できる授業を展開しているという。
教材を監修している静岡大学教育学部 准教授の塩田真吾氏は、教育現場における課題について、「情報モラルに関する教育は通常授業でもあるが、一般的なトラブル事例の紹介やルールの啓発だけの授業では、生徒たちがコミュニケーショントラブルの可能性を自覚することができない。“悪口を言わない”というルールに対して “自分はそんなことしてない”という意識を持ってしまっていることが一番の問題だ」と指摘する。
相手の言葉や行動の印象や捉え方は、個人によって異なるために、思いがけない言葉や行動がコミュニケーショントラブルの端緒になりうるという気づきを与え、どうすればLINEで実際に生じたコミュニケーショントラブルを解決できるかを考えることを促したいのだという。そこで共同開発した教材では、お互いの認識や考え方の違いがコミュニケーションの前提にあり、その前提を理解していないと相手に誤解を与える可能性があることを実感できるプログラムを考案した。
たとえば、「あなたが友達に言われて嫌だと感じる言葉は?」という質問に「まじめだね」「マイペースだね」「個性的だね」といった回答カードを選ばせるテーマでは、結果として生徒たちの回答がバラバラになるとした上で、「悪口は“ウザい、死ね”だけではない。嫌だと感じる言葉の定義は人によって違い、些細な言葉でも相手に嫌な印象を与えることがある。特に文字だけだと感情が伝わらないので誤解が生じやすく、それはスタンプでも起こりうることだ」と解説。
また、「すぐに返信がない」「なかなか会話が終わらない」「自分が一緒に写っている写真が公開される」といったネットで起こりうるいくつかの事象が書かれたカードを“嫌だと思う順”に並べかえるテーマでも、生徒それぞれで順番がバラバラになるという結果を挙げた上で、「嫌だと感じることも人によって違う。自分は気にしていなくても相手は嫌なことだと思っているかもしれない」と話した。
8月末に公開予定のワークショップ教材第2弾では、こうした子どもたちに考えさせるプログラムのコンセプトに加え、実施目的や学校の状況に合わせて、他社との違いとネットの特性を学ぶ「基礎編」と、具体的なシチュエーションの解決策を考える「応用編」を組み合わせて実施できるモジュール型ワークショップを導入。また、自分たちで細かい状況を設定してシミュレーションできる仕組みの導入などの拡充をするという。
さらに、低年齢の子どもでもネット上のコミュニケーションと、対面のコミュニケーションの違いを考えることができるマンガ形式の教材も9月から提供するという。
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